2002年12月19日

当時13歳

コイツは愛すべき家族を、悲しみのどん底へ突き落とした。

母親に抱きかかえられるようにして、家の中に入った。
コイツの尋常じゃない泣き声を聞き、父親が部屋から飛び出してきた。
母親が絞り出すような声で告げた事実に、
父親は、信じられないような、いや、信じたくないような表情を浮かべたが、
警察に通報すべく、すぐさま受話器を取った。
コイツは玄関を上がってすぐ、立っていられなくなった。
その場に座り込み、ひたすら泣き叫んだ。
母親は、そんなコイツを浴室へ連れて行き、下着を脱がした。
それは血に染まっていた。母親も声をあげて泣きだした。
泣きながらコイツを裸にし、シャワーの蛇口を目一杯にひねり、
狂ったように、コイツの体を洗いだした。
しばらくすると、警察が到着した。コイツはガタガタと震えていたが、
まだ犯人が近辺をうろついてるかもしれないからと、パトカーに乗せられた。
犯人は、金髪の真ん中分け、厚手のシャツを着用、
背丈は170cm以上あろう男だった。
ぐるぐると捜し回ったものの、結局見つからなかった。
その日のうちにコイツは、拉致られた現場と強姦された現場に連れ戻され、
そこを指差して立てと要求された上、何枚も写真を撮られた。
誰もコイツの胸の内など気遣ってくれなかった。
再び犯されているような気分だった。
病院へも連れて行かれた。コイツはそこでまた、
自分の意志に関係なく、下着を脱がされ、膣内を洗浄され、
あまりの嘆かわしさに、完了までじっとなどしていられなかった。
息つく暇もなく、今度は警察署へ向かい、事情聴取が始まった。
目の前のイスに腰を下ろしたのは、男だった。
コイツの足元から顔面を見るなり、
「ケガは少ないようだねぇ」と、物足りなげに言った。
そして、まるでコイツが悪いことをしたかのように、根ほり葉ほり、
コイツを問い詰め、コイツが答えたことを、いちいち大声で復唱しながら、
薄っぺらい紙に記して行った。その姿は、どこか楽しんでいるように映った。
そこには父親も付き添っていた。コイツは、父親の前で、
自分がされたことを、こと細かに述べなければならなかった。
疲れ果てて帰ると、その間に帰宅した姉が、
警察から事情を聞いたらしく、鼻を真っ赤にして泣いていた。
夜も更ける頃、布団の中、眠気を乞うだけのコイツの隣に、姉が横になった。
「お父さん、部屋で一人で泣いてたよ…悔しかったんだろうね…
 お姉ちゃんも、今まで生きてきた中で一番…」姉はまた泣きだした。
コイツのせいだと思った。
<私に隙があったから、私が逃げられなかったから、
 私が黙っていられなかったから…>
何もかも、コイツのせいだと思った。
そしてコイツは、視界に入ったハサミを手に取り、自分の手首を切りつけた。
「お願いだからそんなことしないで!」と、姉がその腕を強く掴んできた。
その時コイツは誓った。
コイツは苦しんじゃいけない、もう二度と、苦しがったりしちゃいけない、
少なくとも、家族の前でだけはと。


 あの時、走り出せる力があったなら、
 真実がこぼれ出すのを防ぐことだって、
 できたはずなのに。
 死ぬまで独りで背負い続けるべきだった。
 僕がみんなを突き落としたんだ。