コイツは愛すべき家族を、悲しみのどん底へ突き落とした。
母親に抱きかかえられるようにして、家の中に入った。
コイツの尋常じゃない泣き声を聞き、父親が部屋から飛び出してきた。
母親が絞り出すような声で告げた事実に、
父親は、信じられないような、いや、信じたくないような表情を浮かべたが、
警察に通報すべく、すぐさま受話器を取った。
コイツは玄関を上がってすぐ、立っていられなくなった。
その場に座り込み、ひたすら泣き叫んだ。
母親は、そんなコイツを浴室へ連れて行き、下着を脱がした。
それは血に染まっていた。母親も声をあげて泣きだした。
泣きながらコイツを裸にし、シャワーの蛇口を目一杯にひねり、
狂ったように、コイツの体を洗いだした。
しばらくすると、警察が到着した。コイツはガタガタと震えていたが、
まだ犯人が近辺をうろついてるかもしれないからと、パトカーに乗せられた。
犯人は、金髪の真ん中分け、厚手のシャツを着用、
背丈は170cm以上あろう男だった。
ぐるぐると捜し回ったものの、結局見つからなかった。
その日のうちにコイツは、拉致られた現場と強姦された現場に連れ戻され、
そこを指差して立てと要求された上、何枚も写真を撮られた。
誰もコイツの胸の内など気遣ってくれなかった。
再び犯されているような気分だった。
病院へも連れて行かれた。コイツはそこでまた、
自分の意志に関係なく、下着を脱がされ、膣内を洗浄され、
あまりの嘆かわしさに、完了までじっとなどしていられなかった。
息つく暇もなく、今度は警察署へ向かい、事情聴取が始まった。
目の前のイスに腰を下ろしたのは、男だった。
コイツの足元から顔面を見るなり、
「ケガは少ないようだねぇ」と、物足りなげに言った。
そして、まるでコイツが悪いことをしたかのように、根ほり葉ほり、
コイツを問い詰め、コイツが答えたことを、いちいち大声で復唱しながら、
薄っぺらい紙に記して行った。その姿は、どこか楽しんでいるように映った。
そこには父親も付き添っていた。コイツは、父親の前で、
自分がされたことを、こと細かに述べなければならなかった。
疲れ果てて帰ると、その間に帰宅した姉が、
警察から事情を聞いたらしく、鼻を真っ赤にして泣いていた。
夜も更ける頃、布団の中、眠気を乞うだけのコイツの隣に、姉が横になった。
「お父さん、部屋で一人で泣いてたよ…悔しかったんだろうね…
お姉ちゃんも、今まで生きてきた中で一番…」姉はまた泣きだした。
コイツのせいだと思った。
<私に隙があったから、私が逃げられなかったから、
私が黙っていられなかったから…>
何もかも、コイツのせいだと思った。
そしてコイツは、視界に入ったハサミを手に取り、自分の手首を切りつけた。
「お願いだからそんなことしないで!」と、姉がその腕を強く掴んできた。
その時コイツは誓った。
コイツは苦しんじゃいけない、もう二度と、苦しがったりしちゃいけない、
少なくとも、家族の前でだけはと。
あの時、走り出せる力があったなら、
真実がこぼれ出すのを防ぐことだって、
できたはずなのに。
死ぬまで独りで背負い続けるべきだった。
僕がみんなを突き落としたんだ。
2002年12月19日
当時13歳
posted by コイツ at 00:00| U-16【回顧録】2002年12月〜2003年06月に連載。
