2003年01月05日

偽装

中2になる頃には、すっかり百合子のグループの一員となっていた。

百合子の傍にいると、毎日がハラハラドキドキの連続だった。
放課後に学校に残り、菓子類を頬張りながら語らうなんてのはざらで、
お兄ちゃんのいる子の家に集まり、無断でアダルトビデオを鑑賞したり、
みんなでテレクラに電話をかけ、相手の男にオナニーをさせて遊んだり、
別々のクラスながら、同じ時間に不調を訴え、保健室で落ち合い、
まんまと一緒に早退させてもらった上、家に帰らずブラブラしたり、
仮病で見学を申し出ておいて、ジャージを着たままプールにダイヴしたり、
弱そうな先輩を待ち伏せし、女教師の時と同様に集団で罵倒したり、
それに飽き足らず、怖めの先輩がタムロっている所に、
名指しで「バカ」だの「ブス」だの書いた紙を投げ込み、
案の定キレられ追っかけ回されたり、手に負えなくなった先輩らが、
卒業生(高校生)達に裁きを依頼し、大騒動になったり……
いずれにしても、主導権は、百合子の手の中に安住していた。
それは、物心ついた頃から支配欲の強かったコイツにとっては、
決して気分のいい状況ではなかった。
しかし、百合子には、全くと言っていいほど歯が立たなかった。
百合子はとにかく、頭の回転が早く、恐れ知らずで、
外見的にも、肌や髪がものすごく綺麗だったりで、
この子は絶対に芸能人になるだろうと思わせるようなオーラを放っていた。
周囲は百合子を見かけるなり、「カワイイ」などと煽てまくり、
百合子自身が戸惑ってしまうくらいだった。
あの当時、校内で百合子の存在を知らぬ者はいなかったんじゃなかろうか。
また、百合子はコイツ以上に気が短く、少しでも頭にきた相手がいると、
「シメんべ!」と、すぐに仲間を誘った。
コイツも何度か立ち会うことになったのだが、
ある日の百合子達の行為には、愕然とするものがあった。
一人の女の子相手に、三人がかりで、
理由もろくに説明しないまま、殴る蹴るの暴行を加えだしたのだ。
話で解決するつもりでいたコイツの意志を遮るように、
「とにかくムカつくんだよ!」という声が飛び、
コイツも思わず、蹴りを入れてしまった。最低だ。
仲間の大半は、逆らったら自分がヤバいと察し、
百合子に賛同しているのだと気付いた。情けなかった。

毎日のように、相談室の名を借りた取調室へと呼ばれた。
それぞれの家まで教師達が押しかけてきたこともあった。
ただ、百合子はその度に、
全ては自分が率先してやったこと、責任は自分にあると、
まるで、怒られるのは自分一人でいいかのような発言を繰り返していた。
実際、百合子はほぼ無関係であった問題まで、
百合子が処理を引き受ける時もあった。コイツら仲間は、
そんな百合子に甘えて、楽しむだけ楽しんでは、肝心な所で逃げた。
コイツは反省すると同時に、この子なら信頼できる、
力になりたい、そう思うようになった。

その日もいつものように、仲間と廊下に座り込んでいた。
そしていつものように、百合子が口を開いた。
「あたし昨日、レイプされかかってる女の人見ちゃった!」
──百合子は笑顔だった。
百合子だけじゃない、そこにいた誰もが、笑顔だった。
コイツもとっさに微笑んだ。
<誰も知らないんだもの、誰にも話してないんだもの、しょうがないよ。
 でももう、ここにいる誰にも…>
そこを偶然、英治が通りかかった。
「何話してんの?」
コイツは縋るような、祈るような眼で、英治の顔を見上げた。
「マジで?」
英治は、百合子の話を聞くと、笑った。微笑んでいた……