2003年01月12日

至福

幻滅したが、失望はできなかった。

面白くもないことに笑い、
腹立たしくもないことに怒るような自分にも、徐々に慣れて行った。
小学校時代からの友人・佳奈(仮名)は、そんなコイツの変化に気付き、
やたらとコイツに突っ掛かってくるようになった。
佳奈も同じグループ内にいたのだが、あまり溶け込めてはいなかった。
コイツと佳奈が互いに嫌い合ってることを察した百合子達が、
コイツに配慮してくれた結果だった。
そんな間柄ながら、佳奈とは家が近所だったため、
登下校を共にすることが多かった。
コイツが何より鬱陶しかったのは、佳奈がする英治がらみの話だった。
コイツと英治は、中2で別々のクラスになっていた。
そして、コイツが中1の頃に英治と仲良くしているのを
散々自慢しまくっていた相手・佳奈が、
その英治と中2から同じクラスになったのだ。
まるで仕返しかのごとく、毎日のように、
英治は自分に気がありそうだという話を聞かされた。
しかし、英治は休み時間になると、必ずと言っていいほど、
コイツのクラスへ遊びに来てくれた。コイツは単刀直入に訊いた。
「佳奈のこと好きなの?」
「は? なんで?」
「だって、ちょっかい出されるとか言ってたよ?」
「出してねぇよ」
「足引っ掛けられたとか」
「アイツが勝手に蹴つまずいたんだよ」
「仲良くしちゃヤダ…」
そんな会話をして以来、英治は、コイツの前で、
佳奈に気がないことをアピールするような行動を、何度も取ってくれた。

英治は、一部の女子にとっては、ものすごく感じの悪い奴だった。
「俺、髪の汚い女って嫌いなんだよね」ってな話をした直後に、
傍にいた女の子に向かい、「オマエ髪汚いな!」と言い放ったり、
泣いてる女の子を見かけて、「どうしたの?」と顔を覗き込んでおいて、
「なんだどうでもいい奴か」と吐き捨てて去ったり、
後輩の女の子であろうが、平気で「邪魔」だの「どけ」だの言ったり……
コイツは、そんな英治が、たまらなく好きだった。
そんな英治が、コイツがガムなどをくれとねだると、
「今喰ってんので良かったらあげる」なんて言うのだ。
そんな英治が、「オマエ今日部活出てなかったろ〜」なんて話しかけてくるのだ。
とびきりさわやかな笑顔で。落ちない方が不自然である。
当時のことをこれだけ鮮明に思い出せるという事実が、
当時の英治へのハマり度を物語っている。
コイツはハッキリさせたくなった。「私のこと好きでしょ!」そう断言して、
もっと堂々とイチャついてやりたかった。
そして、中1の頃から付き合っていた彼がいたにも拘らず、
彼にも誰にも何の相談もせずに、英治に告白した。
「私、付き合ってる人いるんだけど、本当に好きなのはオマエ
 (そこまで惚れ込んでおきながら、呼び方はこうだった)なんだよね」
そう、実にサラッと。

英治にも、噂で耳にしていた通り、同じ頃に彼女ができていたと知った。
しかし、同じように、好きでもないのに付き合っている状態だと。

「私のことは、どう思ってるの?」
「……恥ずかしくて言えねぇよ」
「何それ」
「……恥ずかしくて言えないってのでわかんない?」
「うん」
「……嫌いじゃないよ」
「じゃぁ、嫌いの逆?」
「おぅ」
「正反対?」
「おぅ(笑)」

──生きてて良かったと思った。生きてみるもんだと思った。その時は思った。