2003年01月23日

復讐

主役の座を奪おうとしたが、務めたのは悲劇の演出だった。

2学期。英治の視線の先には、まだ百合子がいた。
仲間達も相変わらず、百合子にベッタリだった。
コイツには、百合子達の他にも、仲良くできる友達がいた。
その子達といる方が、遥かに寛げた。

ある日の放課後、コイツは、
百合子とその側近的な位置にいた子がいない隙を見計らって、
仲間達に、グループを抜けたいという意志を告げた。
さぞかし反感を買うだろうと思いきや、
仲間達は皆、コイツを責めないどころか、
「実は私も…」「ホントのこと言うと…」と、
一様に、百合子への不満を並べだすではないか。
それは次第に、百合子がそれぞれの前で言っていた、
それぞれに対する陰口などの、暴露会へと発展した。
コイツはそこで、百合子は、
コイツがベタ惚れしていた英治に交際を申し込まれてしまったということを、
教師も含めたかなり多くの人に、相談だと言っては、
自らしゃべりまくっていたのだと知った。
百合子がコイツに嘘をついたのは、コイツを思いやった結果などではなかった。
もし、本当にそれができたのであれば、そのことを言いふらすことによって、
ますますコイツをミジメな立場に追い込んでしまうことくらい、
容易に察しがついたはずである。
その上百合子は、コイツには絶対に内緒という条件で、
英治と一緒に遊んでいたというのだ。
コイツに「応援する」と言った、あの時期にも。

百合子は、「親友だと思ってる」「信じて」などと、口癖のように言っていた。
グループ内の、誰に対しても。
後ろめたいことのある奴に限って、信じるということを強要する。
あからさまに信じられたがる奴ほど、疑わしい奴はいない。そう学んだ。

声を荒立てながらも、どこか開放感に満ちた顔つきの仲間達。
コイツは正直、嬉しかった。結局、一人では怖かったのだろう。
黙って抜けるという手だってあったわけで。

「ねぇ、明日からもう、百合子シカトしない?」
そう言ったコイツに、そこにいた全員が、賛成してくれた。

集団心理というものは、実にパワフルで恐ろしい。
翌日からコイツらは、見事に百合子をシカトしだした。
そして、かつて百合子にシメられたことがあるような子達も仲間に引き入れ、
徹底的に、百合子を孤立させるという策に出た。
百合子の側近的な位置にいた子はもちろん、百合子と交際中であった人さえも、
コイツらの手で、百合子から離れさせた。
調子に乗ったコイツらは、そこで気が済むわけなどなかった。
中傷文を書いた紙を学年中に回すわ、机に油性ペンで落書きするわ、
上履きの中に整髪用のジェルを流し込むわ、ロッカーにゴミを突っ込むわ……
特に酷かったのは、百合子が登校してきた際や休み時間に沸き起こる、
「帰れ」コールや「死ね」コールだった。
複数の女子(時には男子も)が一斉に、
「か〜え〜れ! か〜え〜れ!」「し〜ね! し〜ね!」と、
手を叩いて大合唱するのだ。繰り返し繰り返し。
状況はまさに一変した。
が、それらはいずれも、面と向かってや1対1では、
誰も百合子に勝てないのだと認めるようなものだった。
百合子は、そんなコイツらの弱さを見透かしているかのように、
平然とした態度を貫き、ツラそうな表情一つ浮かべなかった。

どんな原因があったにせよ、百合子はもはや被害者だった。
どんな事情があるにせよ、コイツはもう、
加害者としか呼びようのない域に達していた。


 僕は結びたがる。
 自分の周辺にあるもの全てを、一つに繋げようとする。
 糸が絡まり、やがて己の首を絞めようとも、
 しぼり出された悲しみに、微笑みかけるだけ。