心を開ける相手というのは、気付いたら開けていた相手のことを指すのだろう。
「友達だったら何でも言えるよね」
「や、友達でも言えないことだってあるよ」
仲良くしていた頃から、百合子とコイツの意見は、真っ向からぶつかることがあった。
ある日の夜、仲間の一人・由樹(仮名)が、
実は自分にも話しにくいことがあるということを話してくれた。コイツだけに。
由樹はコイツのそれが気になってしょうがないようだった。
<この子は絶対に何かある!>
由樹がそう確信したのは、学校に、コイツの父親と名乗る若い男から、
コイツがいるかどうか確認する電話があった時だったという。
コイツは、その電話に出た教師が、
イタズラだと思いつつも、「今文化祭の準備で…」と、
コイツがこの中学に今も通っていることを教えるような応対をしたことに、
激怒してしまった。それは、事件から一年後くらいのことだった。
犯人はまだ捕まっていなかった。
コイツは犯人に、所持品から名前などを割り出されていた。
あの男が殺しに来ると思わずにはいられず、
半端じゃない恐怖心と、その理由を説明できないもどかしさの中、
涙目で教師を責めていたコイツの姿を見た由樹は、
コイツに対し、それまで持っていた“とびきり明るい子”というイメージを捨てた。
翳りのある奴にだけ感じ取れる翳りとやらが存在するのだろうか。
コイツは初めて、家族や警察以外の人間に、事件のことを打ち明けることができた。
由樹も、それを聞いてホッとしたかのように、
自らの境遇について、どんどん打ち明けだした。
同じグループ内にいながら、さほど親しくしてこなかった二人が、
日が昇るまで、延々と語り合っていた。
その時コイツは、死ぬまで消えそうにない傷跡と、
死ぬまで冷めそうにない友情を見つけたような気がした。
由樹の母親は、由樹が物心ついた頃から、精神科に入院していた。
原因は、由樹の父親にあった。由樹の父親は、本当にどうしようもない奴だった。
まず、滅多に家に帰らない。
収入があっても、その金を家族のために使うことなど一切ない。
借金の取り立てが来ようと、電気やガスを止められようと、
子供達が食べる物に困っていようとだ。
金のない時にだけ帰ってきて、由樹の兄の入学費も、母親の貯金も、
全部オノレの道楽に注ぎ込みやがった。
心を病んでしまった由樹の母親は、常に涙もろく、指先が震えていて、
時には暴れることもあり、牢屋のような病室に入れられていた。
離婚という話にもなったが、二人の子供である由樹としては、
<お互いが幸せになれるならいい、でも泣きながら別れるのはヤダ>
という思いがあり、反対し続けていたという。
幼い頃は、母親が自殺未遂をする度に、
寂しさから、母親を引き止めることに必死になった由樹だったが、
「お兄ちゃんと由樹がいるから生きる」「あなた達を産んだことを後悔してる」
「あの時、殺そうと思った。一緒に死のうと思った」などと、
何度も何度も言われるうち、
自分が母親を苦しめているような感覚に陥らざるを得なかった。
10年以上もの間、由樹の父親と母親は、会話すらせず、
状況は一向に変わってくれなかった。
由樹は次第に、自分の母親に対し、
<この人は死んだ方がいい、早くラクになってほしい>
そう思うようになっていた。
引き止める自分のせいで、これ以上苦しんでほしくなかったのだ。
そんな愛もある。コイツはそう言い切りたい。
そして、その時は来た。
2003年02月11日
一生モノの傷と、一生モノの友 〜前編〜
posted by コイツ at 00:00| U-16【回顧録】2002年12月〜2003年06月に連載。
