そう、それはただでさえ、多感な時期だった。
コイツらによるイジメが止んだ頃から、百合子と英治の仲は危うくなった。
それがあってこそ成り立った関係だったのだろう。
百合子は英治と別れ、英治の友人と付き合いだした。
コイツはずっと、英治に守ってもらえる百合子が、羨ましくてしょうがなかった。
英治の傍にいられるなら、それだけで幸せなはずだと思っていた。
でも、それはあくまでも、コイツが英治を必要としていたからの話であって、
百合子にとっては、英治よりも、離れて行った仲間達や彼氏の方が、
遥かに大切な存在だったのだ。実際は、苦痛でないわけがなかった。
百合子は数年後に、あの頃の夢を繰り返し見てしまったり、
自傷行為に及ばずにいられなくなったりと、かなり苛酷な日々を過ごした。
中学卒業後、百合子から連絡が来なければ、
コイツは今でも百合子を、「強い人間」と決め付けていたかもしれない。
どんなに頑丈そうなものであろうと、そのまま壊れないというのは、
とても不自然なことなのだろう。
中3の春、やけに愛想のない男から電話が来た。
両親に用件があるようだったため、内線ボタンを押し、親機へと繋いだ。
母親が出たのを確認し、置こうとした受話器から、二人の会話が漏れてきた。
コイツは思わず、聞き耳を立てた。男の正体は、警察だった。
あの事件の犯人が、別件で逮捕されたとの報告だった。
「ずっと気に掛かってました…」
母親のか細い声が、頭の中にこだました。
<ずっと? ずっと気に?>
全身の力が抜け、その場に倒れ込んだ。
<私の精一杯の笑顔は何だったの?
いったい誰のために、何事もなかったように振る舞ってきたと思う?
これ以上あなた達に心配かけたくなかったから、
あなた達の前でだけは、明るさを保とうと頑張ってきたんじゃない…>
泣いて泣いて、泣いた。
<私のせい、ぜんぶ私のせい、私さえいなければ…>
自分の髪をひたすら掻き毟っている自分がいた。
もう愛さないでほしかった。愛してもらいたくなかった。
コイツは苦しめることでしか、愛されていることを実感できなかった。
<ねぇ、私は生きててもいいの? オマエに聞きたいよ…>
壊れるものならば、一刻も早く壊してしまいたいものだらけだった。
ちょっとでも気を抜けば、悲嘆と虚しさの渦に飲み込まれる。
疲れ果てるまで、もがき続けるっきゃない。
脳みそホテルが散らかって、ガラクタだらけ。
片付けようとすると埃が舞って、
かけがえのない物すら見失いそうになる。
いきなり暗闇に放り込まれ、
身動きが取れなくなる恐怖だけが、
脳裏を支配し続ける。
僕の枕元には、狂った時、その勢いで死ねるように、
いつもよく切れるカミソリが置いてあった。
ある日、布団を干した母親が、それを見つけた。
ふかふかの布団の傍に、それはなかった。
でも、僕はまさか、「僕のカミソリどこにやったんだ!」
なんて怒るわけにもいかず、
気まずい、気まずい、気まずい空気が流れた。
2003年02月22日
割れ物
posted by コイツ at 00:00| U-16【回顧録】2002年12月〜2003年06月に連載。
