一度ねじってしまった針金を、キレイに元通りにするのは困難だ。
「私やっぱ、あのまま殺された方が良かったかもしれない。
じゃなきゃ、自殺するべきだった」
「何言ってんの」
「死んじゃえば、もうそれ以上、悲しむことも悔やむこともなかったわけだし…」
「や、なんかあるよ」
「イイこと?」
「うん」
「保証できる?」
「うん」
「ただのカンなんでしょ?」
「いや、それが当たるんだな」
「…ホントにケーベツしてないの?」
「してないよ。1回言えば分かるじゃん」
「だって、人間不信なんだもん」
「……」
「信じたいけどさ。オマエだけは」
「おぅ」
「…私、生きてる価値あると思う?」
「あるんじゃない?」
「ホントにイイことあんのかなぁ」
「おぅ」
夢を見ているような気分だった。
いつまた突き落とされてしまうのか、そればかりを考えるようになり、
弱音を吐きまくっては、「迷惑じゃない?」「もうイヤんなったでしょ」
などと繰り返す日々が始まった。
それでも英治は、コイツの話を聞き続けてくれた。
修学旅行中も、コイツは持ち前の愚かさを発揮した。
初日の夜、消灯時間を過ぎると、同室の女の子達が、
待ってましたとばかりに、ヒソヒソ話を始めた。
「みんな、好きな人いる?」
「いるよ♪」
「だれだれ?」
「だ〜れだ♪」
中3とは言え、周囲はまだ、そんな話題で盛り上がれるような子ばかりだった。
好きな相手とキスやSEXをしたことについて自慢げに語られたりするよりは、
遥かにマシだった。
ある子の好きな人は、当時コイツと仲の良かった男子だった。
小学校時代、泣かしてしまったことのある晴彦(仮名)である。
コイツは晴彦から、付き合いたいと思っている相手として、
その子とは別の子の名を聞かされていたため、
「向こうも好きだよ絶対!」といった具合に、
応援ムード一色になりかけていた所へ、
「私はススめられない」と、口を出さずにはいられなかった。
無論、その子はその理由を問い詰めてきた。
「何となく」などと言って取り繕おうとしたものの、
「私のこと、何か言ってた?」「聞かなかったことにするから!」と、
今にも泣きだしそうな声で繰り返されるうち、
かつての自分を思い出し、事実を話さざるを得なくなった。
翌日の夜、廊下で晴彦に呼び止められた。
「オマエ言ったろ」
「え?」
「アイツがオマエから聞いたっつってんだよ」
「…あぁ」
コイツは、あの子と晴彦がどんな関係にあったのか、そこで初めて察しが付いた。
晴彦はすでに、あの子から想いを告げられ、あの子に対し、
自分も同じ気持ちでいるかのように偽っていたのだ。他に好きな子などいないと。
胸くそ悪さを引きずったまま部屋にいると、
「ちょっと聞いてよー!」と、他クラスの女子がズカズカと上がり込んできた。
陰口大会の始まりだ。
槍玉に挙がっていたのは、かつての仲間の一人・智絵(仮名)だった。
「そんなにムカつくんなら、面と向かって言やぁいいじゃん」
そこにいた全員が、呆気にとられたような顔でコイツを見た。
「言えないんだったら、私が言いに行ってあげるよ」
誰の目にも不機嫌と判るような態度で部屋を出たコイツは、
智絵のいる部屋へ向かい、智絵を呼び出し、言われていた事柄の大半を伝えた。
言っていた当人達は、その様子を少し離れた所から見ていた。
「何やってんだよ、やめろよ」
智絵に想いを寄せる男子が止めに入った瞬間、頭の中で何かが切れる音がした。
「てめぇには関係ねぇんだよ!!」
よほど迫力があったのか、そいつはあっさりとその場を去った。
智絵の瞳は、涙ぐんでいた。体中から熱が込み上げてきたコイツは、
両手で智絵の首を掴み、壁に押し付けた。
「死ね…」
本気で殺してやろうと思った。そのまま殺せる勢いだった。
何の恨みがあるわけでもない、智絵を。
ハッとして辺りを見回すと、見守っていたはずの子達は姿を消し、
智絵のクラスメイト数人が、コイツ一人に冷ややかな視線を向けていた。
呼吸を整えながら部屋に戻ると、ドアの付近で、晴彦とあの子が口論していた。
あの子は全てコイツから聞いたと、晴彦はコイツの言ったことは全てデマだと、
何度も何度も叫んでいた。
コイツは目の前に広がったマーブル模様を振り払うように、
洗面所へ閉じこもり、その壁を力いっぱい殴りつけた。
そこからは、腕が勝手に動いてしまうかのようだった。
何十発目を越えた時だったのか、「やめなよ!」「どうしたの!?」
ものすごく遠くから聴こえていた気がした声の主達が、
すぐ隣にいることに気付いた。
壁に血液が付着していることに気付こうと、
由樹が呼吸困難に陥ってることに気付こうと、
コイツはその腕を止めることができなかった。
駆け付けた教師達に両脇を抱えられ、別室へ連れて行かれた後も、
コイツは刃物をよこせと暴れ、自分の体中を引っ掻いた。
みんな敵に見えた。英治以外は、みんな。
2003年03月21日
発狂
posted by コイツ at 00:00| U-16【回顧録】2002年12月〜2003年06月に連載。
