2003年04月18日

重複

行きたい高校は決まっていた。
いつ勉強していたのか全く思い出せないのだが、担任との面談では、
そこなら1学期の成績を保てれば余裕で入れると言われた。
しかし、コイツは2学期に入ってすぐ、1週間近く学校を休み、
以降、ほとんど授業に出なくなってしまった。

夏休みが明けて、ほんの数日目の出来事だった。
同好会は文化祭のステージに立てることになり、
コイツは博美達とミーティングを済ませた後、一人で下校した。
まだ空は明るかった。
10メートルくらい前に、同じ中学の制服を着た男子が歩いていて、
何やらチラチラと後ろを振り向きながら、その速度を緩めだしたもんだから、
コイツもあえて、かなりのスローペースで歩くことにした。
しばらくすると姿が見えなくなったため、ホッとしていつもの歩調に戻したのだが、
ソイツは途中にある店から出てきて、
今度はコイツの2メートルくらい後ろを歩きだした。
コイツが早足になると、ソイツも早足になり、一向に広がらぬ距離。
どう考えても怪しい。日が暮れる前だとは言え、人通りは少なく、
ソイツの荒い息づかいが聴こえたコイツは、
危機感を覚え、振り返ることもできないまま、駆け足になった。
その途端、ソイツは走りだし、後ろから思いきり抱きついてきた。
骨が折れるかと思うくらいの力で、身を捩ることすらできない。
ガードレールとの間に挟まれ、足も上げられず、
あの時の恐怖が脳裏をびゅんびゅん横切った。
<まただよ…>そう諦めかけた時、ソイツの手が、コイツの胸の上にあり、
口を塞いでいるわけでもなければ、ナイフを持っているわけでもないことに気付いた。
そして、英治の名が過ったと同時に、「ヤメロヨぉるぁぁ!!」と、
自分でも驚くくらいドスの利いた声で叫ぶことができた。
ソイツは慌てて手を放し、怯えきった表情で後退りした。
「てんめぇ…そこで謝れ」
「すみません…」
見覚えのない奴だった。
「何年だよ?」
「…1年です」
目を潤ませながらも、オノレの股間ばかり気にしてやがるソイツ。
「変態!」この上なく冷たく言い放って歩きだすと、ソイツもすぐに歩きだした。
「付いてくんじゃねぇよボケ!そこで突っ立ってろ!一歩も動くんじゃねぇぞ!」
「ハイ…」
家がバレないよう、なるべく早くソイツの視野から外れられる道を選んで帰った。

<なんで…?>その場では、本当に強気でいられたのに、
家に着き、ドアを閉めた瞬間、涙が溢れ、声をあげて泣いた。
ショックで外へ出られなくなり、
1ヶ月以上無縁でいられた自傷行為も、衝動のままに再開した。
無論、家族には、事実を話すことなどできなかった。
家族を苦しめることで苦しむのは、もうウンザリだった。
だが、コイツの心は、救いを求め、痛み続けた。


 近所の犬がじゃれてきて、
 ボクの両腕が血まみれになった。
 あの時の涙の匂いがした。
 ボクを抱き締める力はいつも、私欲に満ちてる。
 決して、ボクの眼を見ようとはしない。