この世に醜いものがなかったら、何も美しく映らなかったに違いない。
「それ自慢?」「カワイソ〜!(コイツに怒鳴られた相手の方が)」
「スカートん中に手ぇ入れられたりしちゃったの?」……
中1の時の一件を知らぬ友達のほとんどが、
余計に悲しくなるようなことしか言ってくれず、コイツは、
もう頼らないと心に誓ったはずの英治に、電話をかけずにはいられなかった。
「なんていう奴?」
「わかんない、1年ってことしか聞いてない」
「制服着てたんなら嘘かもよ?」
「あぁ…顔見れば分かる、背ぇ高めで…」
「どんくらい?」
「どんくらいだろ…170はあると思う。で、小太りで、天パ入ってて…」
「あぁ」
コイツが笑いながら話していても、英治の口調は、終始、真剣なままだった。
誰なのか突き止めることからだと思ったコイツは、
中学に入学して以来使わずにいた眼鏡をかけ、普段より地味な格好で登校した。
ソイツを捜す必要はなかった。ソイツは、コイツの行く先々に現われやがったのだ。
しかも、ソイツの着ていたジャージの色は、2年の物だった。
あれだけキツく言えば、反省しただろうと思いきや、ソイツは、
コイツに自分の存在を意識されだしたことを、喜んでいるかのようだった。
コイツは、仲の良かった女性教師に相談し、
2年のクラス写真を片っ端から調べ、ソイツの名前をメモった。
女性教師の話によると、ソイツは周囲に嫌われていながら、その自覚が乏しく、
そういう行動に出ても不思議じゃない存在だとのことだった。
体育祭の日も、コイツはソイツに付きまとわれ、競技どころではなかった。
傍にいた由樹が、泣いていたコイツの代わりに、
ソイツの名前とクラスが書かれたメモを、英治に渡してくれた。
その後英治は、コイツが座っていたベンチに座るなどして、
ソイツの動きを見張ってくれているようだった。
「メモ読んだ?」
「うん」
「ソイツのこと知ってる?」
「うん」
「すげぇ気持ち悪いよね。最近、夜眠れないし、食欲ないし、授業も出れてない」
「あぁ」
「でも、なんかこういうのも、自分のせいに思えてくる」
「……」
「アイツが悪いんだよねぇ」
「うん」
「生徒指導に言わなきゃ、
アイツのこと呼び出してどうこうってことはできないらしいんだ」
「言っちまえ」
「んー…もうちょい様子見て…」
「いくら待ってもおんなじじゃん」
「あぁ…だって、それで違う形で後引きずるってことないかな」
「わかんない」
「そうなんないように、力貸してくれる?」
「え、言っていいの?」
「え、言ってくれんの? 言ってほしいよ」
「あ、そう? 会ったら言っとくよ」
それは二人にとって、当たり前のことではなかった。当たり前のことなんかでは。
2003年04月21日
善と悪 〜前編〜
posted by コイツ at 00:00| U-16【回顧録】2002年12月〜2003年06月に連載。
