この世に美しいものがなかったら、何も醜く映らなかったのだろうか。
コイツは、中2の頃に何かと世話になった相談室で、
生徒指導の教師に、自分が学校を休みがちになった経緯を話した。
すると教師は、「俺にも娘がいるし、他人事とは思えない」
「警察に突き出してやりたい」「1発殴るだけじゃ気が済まない」などと息巻き、
アイツに厳重注意することを、あっさりと承諾してくれた。
ところが、数日後、教師の態度は豹変した。
「とりあえず、やったことはすぐに認めたよ」
アイツが認めた事柄を一通り挙げた後、教師はこう続けた。
「で、理由を訊いてみたんだが、どうやら、オマエが好きなタイプだったらしい」
「…で?」
「3年生の方は、もう顔も見たくないって言ってるから、
これからは近づかないようにしろって言ったら、半ベソかいて反省してたよ」
「…で?」
「ここは、アイツを信じてやろうや」
「は?」
「オマエさえ許してやれば、それで済む話だ」
コイツが腑に落ちない表情でいると、教師は更に続けた。
「大体オマエ、何だその格好は。校則違反だろうが。
オマエを代表して言うが、近頃の3年の女子は、露出度が高過ぎるんだよ。
男には、そういうのに興奮しやすい年頃っていうのがあってだな…」
「しょうがないって言うの?」
「まぁ、そういう言い方も、できなくはない」
「……」
「それに、これ以上事を荒立てたいんであれば、
オマエの両親にも報告しなきゃならないぞ?」
「ヤダ…それだけは絶対ヤダ」
「だろ? この時期に欠席が多いだけでも心配だろうに、そんなの聞いたらなぁ…」
「わかったよ…もういいよ…」
コイツは確かに、他の同学年の女子の大半と同じく、夏服は、
薄手のシャツ1枚に、膝上10センチくらいのスカート、というのが主だった。
だが、それがアイツの行為を正当化できる物だとは、とても思いがたかった。
「アイツ、体育祭ん時、私がいたテントの周りウロチョロしてたの知ってた?」
「うん」
「あーいうのとかも全部、私に近づくために意図的にやったって認めたって」
「……」
コイツは英治に、生徒指導への不信感もぶちまけた。
「教師っていう立場だし、何事もこう、
早く解決に持って行きたいって気持ちは、解らないでもないんだけど、
こういう問題まで、両方悪いって片付けていいものなのか、すごい疑問」
「……」
「それに、生徒指導って男じゃん。
やっぱ男にしてみれば、こんなこと大したことじゃないのかなって」
「……」
「オマエ、アイツのこと、サイテーな野郎だと思う?」
「うん」
「あ、あれから会った?」
「会ったよ」
「なんかしゃべった?」
「あんま…ちっとしか言わなかった」
コイツは、英治が腹立たしく感じる相手に向ける視線の威圧感を、よく知っていた。
その視線がアイツに向いたことを想像するだけでも、かなりの爽快感を得られた。
実際アイツは、以降、パタッとコイツを待ち伏せしたりしなくなった。
恋人でもないのに、英治に甘えっきりでいる自分は、ものすごく嫌だった。
コイツが離れて行きさえすれば、英治は、より穏やかな生活ができ、
受験勉強にも専念しやすいだろうと思い、再び連絡を取らない日々が始まった。
その頃にはもう、進学する気など、ゼロに等しかった。
2003年04月23日
善と悪 〜後編〜
posted by コイツ at 00:00| U-16【回顧録】2002年12月〜2003年06月に連載。
