2003年04月23日

善と悪 〜後編〜

この世に美しいものがなかったら、何も醜く映らなかったのだろうか。

コイツは、中2の頃に何かと世話になった相談室で、
生徒指導の教師に、自分が学校を休みがちになった経緯を話した。
すると教師は、「俺にも娘がいるし、他人事とは思えない」
「警察に突き出してやりたい」「1発殴るだけじゃ気が済まない」などと息巻き、
アイツに厳重注意することを、あっさりと承諾してくれた。
ところが、数日後、教師の態度は豹変した。

「とりあえず、やったことはすぐに認めたよ」
アイツが認めた事柄を一通り挙げた後、教師はこう続けた。
「で、理由を訊いてみたんだが、どうやら、オマエが好きなタイプだったらしい」
「…で?」
「3年生の方は、もう顔も見たくないって言ってるから、
 これからは近づかないようにしろって言ったら、半ベソかいて反省してたよ」
「…で?」
「ここは、アイツを信じてやろうや」
「は?」
「オマエさえ許してやれば、それで済む話だ」
コイツが腑に落ちない表情でいると、教師は更に続けた。
「大体オマエ、何だその格好は。校則違反だろうが。
 オマエを代表して言うが、近頃の3年の女子は、露出度が高過ぎるんだよ。
 男には、そういうのに興奮しやすい年頃っていうのがあってだな…」
「しょうがないって言うの?」
「まぁ、そういう言い方も、できなくはない」
「……」
「それに、これ以上事を荒立てたいんであれば、
 オマエの両親にも報告しなきゃならないぞ?」
「ヤダ…それだけは絶対ヤダ」
「だろ? この時期に欠席が多いだけでも心配だろうに、そんなの聞いたらなぁ…」
「わかったよ…もういいよ…」

コイツは確かに、他の同学年の女子の大半と同じく、夏服は、
薄手のシャツ1枚に、膝上10センチくらいのスカート、というのが主だった。
だが、それがアイツの行為を正当化できる物だとは、とても思いがたかった。

「アイツ、体育祭ん時、私がいたテントの周りウロチョロしてたの知ってた?」
「うん」
「あーいうのとかも全部、私に近づくために意図的にやったって認めたって」
「……」
コイツは英治に、生徒指導への不信感もぶちまけた。
「教師っていう立場だし、何事もこう、
 早く解決に持って行きたいって気持ちは、解らないでもないんだけど、
 こういう問題まで、両方悪いって片付けていいものなのか、すごい疑問」
「……」
「それに、生徒指導って男じゃん。
 やっぱ男にしてみれば、こんなこと大したことじゃないのかなって」
「……」
「オマエ、アイツのこと、サイテーな野郎だと思う?」
「うん」
「あ、あれから会った?」
「会ったよ」
「なんかしゃべった?」
「あんま…ちっとしか言わなかった」
コイツは、英治が腹立たしく感じる相手に向ける視線の威圧感を、よく知っていた。
その視線がアイツに向いたことを想像するだけでも、かなりの爽快感を得られた。
実際アイツは、以降、パタッとコイツを待ち伏せしたりしなくなった。

恋人でもないのに、英治に甘えっきりでいる自分は、ものすごく嫌だった。
コイツが離れて行きさえすれば、英治は、より穏やかな生活ができ、
受験勉強にも専念しやすいだろうと思い、再び連絡を取らない日々が始まった。
その頃にはもう、進学する気など、ゼロに等しかった。