2005年09月15日

予兆

永遠など有り得ないのだと、確信した。

「私やっぱ、あのまま殺された方が良かったかもしれない。
 じゃなきゃ、自殺するべきだった」
「何言ってんの」
「死んじゃえば、もうそれ以上、悲しむことも悔やむこともなかったわけだし…」
「や、なんかあるよ」
「イイこと?」
「うん」
「保証できる?」
「うん」
「ただのカンなんでしょ?」
「いや、それが当たるんだな」

いつかの英治とのやりとりが、頭の中を何往復したことだろう。
祈ることしかできない日々は、とてもとても長く感じた。
「またいつでも会えるよ」
最後に見せてくれた笑顔が、握った手の暖かさが、大好きなあの声が、
何よりも遠くへ行ってしまいそうな感覚。
それに逆らうように、鮮やかさを増す思い出達。
四六時中、神経が張り詰め、何度も呼吸が乱れた。

そんなコイツのもとに届けられたのは、朗報だった。
手術は成功した。英治は一命を取り留めた。少しずつ回復へと向かって行く英治。
だが、コイツはそんな英治に、一度も会いに行こうとしなかった。
危機的な状況を脱したと判っただけで安堵し、全身の力が抜け、
その後の英治の苦しみなど、想像すらしなかった。
だいぶ後になって知ったことだが、
英治はこの時、吊るされた自らの足を見つめながら、初めて、
「死ねば良かった」という思いを味わっていた。
甦る恐怖、走る激痛、そして、
家族に迷惑をかけてしまったという罪の意識から解放されたくて…

典型的な熱しやすく冷めやすいタイプだった英治は、
入学早々に付き合いだした彼女とは、すでに別れていた。
自分から惚れ込んでおいて、あまり話さなくなって離れるという、
百合子の時と同じような結末だった。
度々見舞いに行っていた寿明に、「寂しい」と漏らしてしまうほど、
英治は弱っていた。でも、コイツは会いに行かなかった。
ただ、改めて、一刻も早く、英治に頼らなくても大丈夫な自分にならねばと思った。
このまま英治が必要な自分でいてはダメだと。
これから我が身に起こりうる、“イイこと”を掴めるまでは、それまでは、
会ってはいけないような気さえしていた。
英治に会いたい自分こそが、英治を愛おしむ自分こそが、
真っ暗な闇の中、一筋の光となっていた日々は、もう、終わっていた。