初体験は、レイプだった。
中1の秋、下校途中に、待ち伏せしていた(と後に判った)若い男に、
突然背後から口を塞がれ、首筋にナイフを突き付けられた。
気が動転するばかりで、悲鳴をあげることすらできなかった。
家まであと数十メートル(皮肉にも処女作が誕生した辺り)の場所で、
コイツは拉致られた。
「おとなしくしろ、殺すぞ」などといったことを、耳元で何度も言われた。
心臓が暴れ、今にも胸を突き破って飛び出しそうだった。
そんなにも自分が生きていることを実感させられたのは、初めてだった。
<殺されるんだ、殺されるんだ私、今から殺されるんだ、殺されるのか…>
恐怖心はピークを越え、もはや笑い出しそうな領域だった。
連れ込まれたのは、ひとけのない、真っ暗闇に近い林。
そこから逃がしてやれたのは、逃げたいという本心だけだった。
そんなコイツに、男はキスをしてきた。コイツは一瞬だけ、ホッとした。
<なんだ、目的はそっちか>
小学校低学年の時点で、好きだったわけでもない男の子と、
遊びの延長ながら、ある程度の行為までは経験済みだったコイツにとって、
それくらい、さほど苦痛なことではなかった。
男は童貞だったのか、それとも若干の罪の意識からか、やけにぎこちなかった。
コイツは何だか、相手が気の毒に思えてきて、されるがままになりながらも、
「こんなことして楽しい?」と、冷静な口調で言い放った。
男はコイツを黙らすように、口にモノを押し込んできた。
厭がって歯を立てた上に、わざとらしく嘔吐くような素振りをしたら、
髪を引っ張られた上に、殴られた。
やっぱりこのまま帰れないかもしれないと思い、
何とか逃げなきゃと、抵抗しだした時には、もう遅かった。
痛くて痛くて、痛くて涙が止まらなかった。とにかく痛い、それだけだった。
男は自分の欲を満たすと、今度はコイツの首を締めだした。
コイツはそのまま、意識を失った。
それからどれくらいの時間が経った頃だろう。
コイツはその場で、自ら目を覚ました。そう、コイツは死んでいなかった。
そして、男がいなくなっていることを確認し、ゆっくりと立ち上がり、走りだした。
その時やっと、家族の顔が過った。お母さん…お姉ちゃん…お父さん……
声になりそうなのを堪え、ただただ走った。家を目指し、まっしぐらに。
駐車場の前で、母親が待っていた。コイツはその胸に飛び込んだ。また涙が溢れた。
と、同時に、コイツは明かしてしまった。何があったのかを。
本当の地獄は、そこからだった。
2002年12月17日
天罰
posted by コイツ at 00:00| U-16【回顧録】2002年12月〜2003年06月に連載。
2002年12月19日
当時13歳
コイツは愛すべき家族を、悲しみのどん底へ突き落とした。
母親に抱きかかえられるようにして、家の中に入った。
コイツの尋常じゃない泣き声を聞き、父親が部屋から飛び出してきた。
母親が絞り出すような声で告げた事実に、
父親は、信じられないような、いや、信じたくないような表情を浮かべたが、
警察に通報すべく、すぐさま受話器を取った。
コイツは玄関を上がってすぐ、立っていられなくなった。
その場に座り込み、ひたすら泣き叫んだ。
母親は、そんなコイツを浴室へ連れて行き、下着を脱がした。
それは血に染まっていた。母親も声をあげて泣きだした。
泣きながらコイツを裸にし、シャワーの蛇口を目一杯にひねり、
狂ったように、コイツの体を洗いだした。
しばらくすると、警察が到着した。コイツはガタガタと震えていたが、
まだ犯人が近辺をうろついてるかもしれないからと、パトカーに乗せられた。
犯人は、金髪の真ん中分け、厚手のシャツを着用、
背丈は170cm以上あろう男だった。
ぐるぐると捜し回ったものの、結局見つからなかった。
その日のうちにコイツは、拉致られた現場と強姦された現場に連れ戻され、
そこを指差して立てと要求された上、何枚も写真を撮られた。
誰もコイツの胸の内など気遣ってくれなかった。
再び犯されているような気分だった。
病院へも連れて行かれた。コイツはそこでまた、
自分の意志に関係なく、下着を脱がされ、膣内を洗浄され、
あまりの嘆かわしさに、完了までじっとなどしていられなかった。
息つく暇もなく、今度は警察署へ向かい、事情聴取が始まった。
目の前のイスに腰を下ろしたのは、男だった。
コイツの足元から顔面を見るなり、
「ケガは少ないようだねぇ」と、物足りなげに言った。
そして、まるでコイツが悪いことをしたかのように、根ほり葉ほり、
コイツを問い詰め、コイツが答えたことを、いちいち大声で復唱しながら、
薄っぺらい紙に記して行った。その姿は、どこか楽しんでいるように映った。
そこには父親も付き添っていた。コイツは、父親の前で、
自分がされたことを、こと細かに述べなければならなかった。
疲れ果てて帰ると、その間に帰宅した姉が、
警察から事情を聞いたらしく、鼻を真っ赤にして泣いていた。
夜も更ける頃、布団の中、眠気を乞うだけのコイツの隣に、姉が横になった。
「お父さん、部屋で一人で泣いてたよ…悔しかったんだろうね…
お姉ちゃんも、今まで生きてきた中で一番…」姉はまた泣きだした。
コイツのせいだと思った。
<私に隙があったから、私が逃げられなかったから、
私が黙っていられなかったから…>
何もかも、コイツのせいだと思った。
そしてコイツは、視界に入ったハサミを手に取り、自分の手首を切りつけた。
「お願いだからそんなことしないで!」と、姉がその腕を強く掴んできた。
その時コイツは誓った。
コイツは苦しんじゃいけない、もう二度と、苦しがったりしちゃいけない、
少なくとも、家族の前でだけはと。
あの時、走り出せる力があったなら、
真実がこぼれ出すのを防ぐことだって、
できたはずなのに。
死ぬまで独りで背負い続けるべきだった。
僕がみんなを突き落としたんだ。
母親に抱きかかえられるようにして、家の中に入った。
コイツの尋常じゃない泣き声を聞き、父親が部屋から飛び出してきた。
母親が絞り出すような声で告げた事実に、
父親は、信じられないような、いや、信じたくないような表情を浮かべたが、
警察に通報すべく、すぐさま受話器を取った。
コイツは玄関を上がってすぐ、立っていられなくなった。
その場に座り込み、ひたすら泣き叫んだ。
母親は、そんなコイツを浴室へ連れて行き、下着を脱がした。
それは血に染まっていた。母親も声をあげて泣きだした。
泣きながらコイツを裸にし、シャワーの蛇口を目一杯にひねり、
狂ったように、コイツの体を洗いだした。
しばらくすると、警察が到着した。コイツはガタガタと震えていたが、
まだ犯人が近辺をうろついてるかもしれないからと、パトカーに乗せられた。
犯人は、金髪の真ん中分け、厚手のシャツを着用、
背丈は170cm以上あろう男だった。
ぐるぐると捜し回ったものの、結局見つからなかった。
その日のうちにコイツは、拉致られた現場と強姦された現場に連れ戻され、
そこを指差して立てと要求された上、何枚も写真を撮られた。
誰もコイツの胸の内など気遣ってくれなかった。
再び犯されているような気分だった。
病院へも連れて行かれた。コイツはそこでまた、
自分の意志に関係なく、下着を脱がされ、膣内を洗浄され、
あまりの嘆かわしさに、完了までじっとなどしていられなかった。
息つく暇もなく、今度は警察署へ向かい、事情聴取が始まった。
目の前のイスに腰を下ろしたのは、男だった。
コイツの足元から顔面を見るなり、
「ケガは少ないようだねぇ」と、物足りなげに言った。
そして、まるでコイツが悪いことをしたかのように、根ほり葉ほり、
コイツを問い詰め、コイツが答えたことを、いちいち大声で復唱しながら、
薄っぺらい紙に記して行った。その姿は、どこか楽しんでいるように映った。
そこには父親も付き添っていた。コイツは、父親の前で、
自分がされたことを、こと細かに述べなければならなかった。
疲れ果てて帰ると、その間に帰宅した姉が、
警察から事情を聞いたらしく、鼻を真っ赤にして泣いていた。
夜も更ける頃、布団の中、眠気を乞うだけのコイツの隣に、姉が横になった。
「お父さん、部屋で一人で泣いてたよ…悔しかったんだろうね…
お姉ちゃんも、今まで生きてきた中で一番…」姉はまた泣きだした。
コイツのせいだと思った。
<私に隙があったから、私が逃げられなかったから、
私が黙っていられなかったから…>
何もかも、コイツのせいだと思った。
そしてコイツは、視界に入ったハサミを手に取り、自分の手首を切りつけた。
「お願いだからそんなことしないで!」と、姉がその腕を強く掴んできた。
その時コイツは誓った。
コイツは苦しんじゃいけない、もう二度と、苦しがったりしちゃいけない、
少なくとも、家族の前でだけはと。
あの時、走り出せる力があったなら、
真実がこぼれ出すのを防ぐことだって、
できたはずなのに。
死ぬまで独りで背負い続けるべきだった。
僕がみんなを突き落としたんだ。
posted by コイツ at 00:00| U-16【回顧録】2002年12月〜2003年06月に連載。
2002年12月23日
他人事
どのみち今日でお別れだって思えば、何だって耐えられた。
事件以来、初の登校日。コイツは何事もなかったかのような顔で家を出た。
しかし、現実は、そんなコイツの後ろ姿を見失ってなどくれなかった。
全校生徒を集めて行われる朝会で、事件のことが話題になった。
学区内でそういった事件が起こった、皆さんも注意しましょう、そんな内容だった。
教室に帰ってからも、担任が、襲われそうになった時は、
とにかく大声を出すようにと、繰り返し呼びかけた。
中学に入ってからのコイツは、やたらと明るかった。
授業中、教師に授業とは全く関係のない質問をして、その進行を妨げたり、
問題を出され、高々と挙手しておいて、当てられると「解りません」と答えたり、
教室内が静まり返っている時に、卑猥な歌詞の唄を口ずさみだしたり……
そのうるささから、教師達にはよく、教科書などで頭を叩かれた。
中には、「オマエは絵にしたらこんなんじゃ!」と、
黒板に、目玉のついたスピーカーを描いてみせた教師もいた。
コイツはそんないつもの調子で、担任に言い返してみた。
「ねぇ、騒いだら殺すとか言われたら、どうすればいいの?」
それでも、大声を出しさえすれば、相手は怯むはずだとのことだった。
そのやりとりに不自然さはなく、「オマエは強いから平気だべー」
なんてツッコミを入れる男子もいたくらいで、
誰一人、コイツが被害に遭った張本人だとは気付かないようだった。
休み時間、噂好きな女子生徒達は、まだその話題を引っ張っていた。
「あれ、うちの学校の生徒だって話じゃん、誰だろう?」
「3年生なんじゃない?」
「あたしんちに警察が聞き込みに来たよ!
なんか、あたしんちのすぐ傍だったらしくて…」
「マジで!?」
「ねぇねぇ、みんな、痴漢にあったことある?」
「ないよそんなのー!」
コイツは試しに、自分が電車内であった痴漢の話をしてみた。
皆、それだけで引いた。この子達には、絶対に真実を明かすまいと思った。
自分一人だけ、別世界に追いやられたような気分だった。
だが、コイツは穏やかな表情を崩さなかった。
家族から離れている隙に、自殺をしようと心に決めていたのだ。
ただ一つ、ただ一つだけ、その決心を打ち砕いた物があった。
クラスメイトの一人・英治(仮名)への想いである。
英治は、入学当初から、
それまでに出会ったことがないくらいの美少年で、とても目を引いた。
当時、お互いB'zやBOΦWYが好きだった(そんな時期もあった)ことから、
二人はすぐに仲良くなった。
ホモ疑惑が囁かれるほど、女の子に対して冷たい態度を取りがちだった英治。
なのに、コイツと話す時は、いつも笑顔だった。
コイツは、男の子のそういう行動にめっぽう弱く、モテる相手だったため、
尚更に嬉しくて、そんな気持ちはいつしか、恋心へと変わっていた。
死んだら会えないと思った。会えるなら生きたいと思った。
何があろうと生きようと。
現実は、そんなコイツを許さぬように、
どこまでもどこまでも、コイツを付け回してきた。
テレビをつければ、毎日のように、似たような事件のニュースや、
ドラマのワンシーンなどが流れる。レイプという言葉は時に、
バラエティー番組の中で、笑い話に用いられることもある。
その度に、我が家の食卓の空気は凍りついた。
また、少しでもコイツの帰りが遅くなると、母親は、コイツがドアを開けるなり、
「大丈夫だった?」 と、血の気の引いたような顔で訊いてくるようになった。
どんなに忘れたくても、思い出させる物事が減ることはなかった。
数ヶ月後、検査が必要だからと、産婦人科へ連れて行かれた時には、
「殺されれば良かった!!」と、泣きながら、何度も何度も絶叫した。
激しく暴れるコイツを、複数の大人達が、無理やり診察台の上に押さえ付けた。
そこには警察も来ていた。
犯人は、捕まえたとしても、数年で社会に戻れるとの事実を知った。
<私は一生、一生この傷を癒せそうにないのに…>そう思った。
そんな法律変えてやろうなどとは、とても思えなかった。
犯人は後に、新たな被害者を生み、逮捕された。
その際に、コイツも告訴とやらをするよう求められたが、
無力感に打ちのめされていたコイツは、何もかも信じられなくなっていたコイツは、
それを断らずにはいられなかった。
人はそれを、「泣き寝入り」と呼ぶ。
他人を同じような災難から守るためですか?
そのために僕が犠牲になるんですか?
僕はそのために、それだけのために産まれてきたんですか?
親友が事故で亡くなったって場所に連れて行かれて、
「死にたいなんてバカなことは考えるな!」って、
涙ながらの説得を浴びた。
あのとき死ねてたら、こんな説得、浴びずに済んだのに。
僕はどれだけ責められればいいんだろう。
どこへ行けば、思いきり泣けるんだろう。
「ツライのはオマエだけじゃない、オマエよりもツライ人だっている」
そういう励まし方って、逆効果だって知ってた?
更なる痛みを防ぐため、やむなく胸に封じ込めた物は、
いつまでも消えずに、凶器へと変形しながら、
飛び出すタイミングを待ってる。
事件以来、初の登校日。コイツは何事もなかったかのような顔で家を出た。
しかし、現実は、そんなコイツの後ろ姿を見失ってなどくれなかった。
全校生徒を集めて行われる朝会で、事件のことが話題になった。
学区内でそういった事件が起こった、皆さんも注意しましょう、そんな内容だった。
教室に帰ってからも、担任が、襲われそうになった時は、
とにかく大声を出すようにと、繰り返し呼びかけた。
中学に入ってからのコイツは、やたらと明るかった。
授業中、教師に授業とは全く関係のない質問をして、その進行を妨げたり、
問題を出され、高々と挙手しておいて、当てられると「解りません」と答えたり、
教室内が静まり返っている時に、卑猥な歌詞の唄を口ずさみだしたり……
そのうるささから、教師達にはよく、教科書などで頭を叩かれた。
中には、「オマエは絵にしたらこんなんじゃ!」と、
黒板に、目玉のついたスピーカーを描いてみせた教師もいた。
コイツはそんないつもの調子で、担任に言い返してみた。
「ねぇ、騒いだら殺すとか言われたら、どうすればいいの?」
それでも、大声を出しさえすれば、相手は怯むはずだとのことだった。
そのやりとりに不自然さはなく、「オマエは強いから平気だべー」
なんてツッコミを入れる男子もいたくらいで、
誰一人、コイツが被害に遭った張本人だとは気付かないようだった。
休み時間、噂好きな女子生徒達は、まだその話題を引っ張っていた。
「あれ、うちの学校の生徒だって話じゃん、誰だろう?」
「3年生なんじゃない?」
「あたしんちに警察が聞き込みに来たよ!
なんか、あたしんちのすぐ傍だったらしくて…」
「マジで!?」
「ねぇねぇ、みんな、痴漢にあったことある?」
「ないよそんなのー!」
コイツは試しに、自分が電車内であった痴漢の話をしてみた。
皆、それだけで引いた。この子達には、絶対に真実を明かすまいと思った。
自分一人だけ、別世界に追いやられたような気分だった。
だが、コイツは穏やかな表情を崩さなかった。
家族から離れている隙に、自殺をしようと心に決めていたのだ。
ただ一つ、ただ一つだけ、その決心を打ち砕いた物があった。
クラスメイトの一人・英治(仮名)への想いである。
英治は、入学当初から、
それまでに出会ったことがないくらいの美少年で、とても目を引いた。
当時、お互いB'zやBOΦWYが好きだった(そんな時期もあった)ことから、
二人はすぐに仲良くなった。
ホモ疑惑が囁かれるほど、女の子に対して冷たい態度を取りがちだった英治。
なのに、コイツと話す時は、いつも笑顔だった。
コイツは、男の子のそういう行動にめっぽう弱く、モテる相手だったため、
尚更に嬉しくて、そんな気持ちはいつしか、恋心へと変わっていた。
死んだら会えないと思った。会えるなら生きたいと思った。
何があろうと生きようと。
現実は、そんなコイツを許さぬように、
どこまでもどこまでも、コイツを付け回してきた。
テレビをつければ、毎日のように、似たような事件のニュースや、
ドラマのワンシーンなどが流れる。レイプという言葉は時に、
バラエティー番組の中で、笑い話に用いられることもある。
その度に、我が家の食卓の空気は凍りついた。
また、少しでもコイツの帰りが遅くなると、母親は、コイツがドアを開けるなり、
「大丈夫だった?」 と、血の気の引いたような顔で訊いてくるようになった。
どんなに忘れたくても、思い出させる物事が減ることはなかった。
数ヶ月後、検査が必要だからと、産婦人科へ連れて行かれた時には、
「殺されれば良かった!!」と、泣きながら、何度も何度も絶叫した。
激しく暴れるコイツを、複数の大人達が、無理やり診察台の上に押さえ付けた。
そこには警察も来ていた。
犯人は、捕まえたとしても、数年で社会に戻れるとの事実を知った。
<私は一生、一生この傷を癒せそうにないのに…>そう思った。
そんな法律変えてやろうなどとは、とても思えなかった。
犯人は後に、新たな被害者を生み、逮捕された。
その際に、コイツも告訴とやらをするよう求められたが、
無力感に打ちのめされていたコイツは、何もかも信じられなくなっていたコイツは、
それを断らずにはいられなかった。
人はそれを、「泣き寝入り」と呼ぶ。
他人を同じような災難から守るためですか?
そのために僕が犠牲になるんですか?
僕はそのために、それだけのために産まれてきたんですか?
親友が事故で亡くなったって場所に連れて行かれて、
「死にたいなんてバカなことは考えるな!」って、
涙ながらの説得を浴びた。
あのとき死ねてたら、こんな説得、浴びずに済んだのに。
僕はどれだけ責められればいいんだろう。
どこへ行けば、思いきり泣けるんだろう。
「ツライのはオマエだけじゃない、オマエよりもツライ人だっている」
そういう励まし方って、逆効果だって知ってた?
更なる痛みを防ぐため、やむなく胸に封じ込めた物は、
いつまでも消えずに、凶器へと変形しながら、
飛び出すタイミングを待ってる。
posted by コイツ at 00:00| U-16【回顧録】2002年12月〜2003年06月に連載。
2002年12月28日
連鎖
何の恨みもなかった教師に、土下座をさせた。
3学期になると、コイツは百合子(仮名)という女の子を中心とした
輪の中にいることが増えていた。
その教師に腹を立てていたのは、百合子だった。
早々と部活を辞め、目立つ格好をしだし、
先輩らに注意をされようが、それを楽しんでいるかのような百合子には、
羨望の眼差しを向ける女子生徒も少なくなかった。
そんな百合子に気に入られるためかのごとく、
一部の女子生徒達が結束を固め、その教師を呼び出したのだ。
教職歴20年はあろう、体育担当の女教師だった。
生徒達から浴びせられる罵声の数々に、ひたすら謝り続ける女教師。
それを面白がって、更に詰りだす生徒達。
「これ以上どうすればいいの?」
半ば投げやりな口調でそう言った女教師の目には、涙が浮かんでいた。
そこへ吐き捨てられたのが、「土下座して下さい」という一言だった。
その声の主は、コイツだった。女教師は、コイツの足元に平伏した。
胸の真ん中あたりに、小さな痛みを覚えた。
だが、コイツはそこに、大きな快感を見い出そうとしていた。
同じ頃、コイツに交際を申し込んできた男の子がいた。
入学直後にコイツから告白をしたものの、
他に好きな子がいるからと振られた相手だった。
コイツはその時、「ずっと待ってる」と言ってあった。
が、コイツが待っていたのは、彼が自分に惚れる日が来ることではなく、
自分が彼を同じように振れる日が来ることだった。
コイツは散々悩んだふりをしたあげく、少しイイ思いをさせてあげてからの方が、
より強いダメージを与えられるに違いないと、
それだけの理由で、その彼と付き合うことにした。
あの事件の後、高校生であった姉に、
「今度Hする時は、絶対好きな人としなさいね!」と言われたことがあった。
姉には当時、結婚を意識していたほどの恋人がいた。
姉はその恋人と、初体験を済ませていた。
なんて無神経な奴だと思った。好きな人に抱かれる喜びなんて知ったら、
コイツはますます混乱してしまうだろうと思った。
<私はあんな目に遭うのが当然の人間、好きな人となんか一生できない>
そう言い聞かせることで、コイツは何とか平静を装えていたのだ。
目の前の現実に圧倒されぬためには、
そんな風に、自身の願望を無視する他なかった。
そうすることによって、満足はできなくとも、納得ができたのだ。
とは言えそれは、自暴自棄としか呼べぬ状況だった。授業もサボりがちになり、
満点に近い点ばかりを取っていた国語・音楽・美術のテスト結果も、
著しく悪くなって行った。そういった自分への嫌悪感からか、
この頃からコイツは、自らの腕や手を、
コンパスなどで頻繁に傷つけるようになった。
気持ち悪がるだけの友達もいたが、心配してくれる友達もいた。
だけどもコイツは、誰にも心を開こうとはしなかった。
英治に会えれば、それで良かった。
英治の声は、笑顔は、コイツの魂を、優しく撫でてくれるようだった。
しかし、そんなコイツにも、新たな罰が下ろうとしていた。
3学期になると、コイツは百合子(仮名)という女の子を中心とした
輪の中にいることが増えていた。
その教師に腹を立てていたのは、百合子だった。
早々と部活を辞め、目立つ格好をしだし、
先輩らに注意をされようが、それを楽しんでいるかのような百合子には、
羨望の眼差しを向ける女子生徒も少なくなかった。
そんな百合子に気に入られるためかのごとく、
一部の女子生徒達が結束を固め、その教師を呼び出したのだ。
教職歴20年はあろう、体育担当の女教師だった。
生徒達から浴びせられる罵声の数々に、ひたすら謝り続ける女教師。
それを面白がって、更に詰りだす生徒達。
「これ以上どうすればいいの?」
半ば投げやりな口調でそう言った女教師の目には、涙が浮かんでいた。
そこへ吐き捨てられたのが、「土下座して下さい」という一言だった。
その声の主は、コイツだった。女教師は、コイツの足元に平伏した。
胸の真ん中あたりに、小さな痛みを覚えた。
だが、コイツはそこに、大きな快感を見い出そうとしていた。
同じ頃、コイツに交際を申し込んできた男の子がいた。
入学直後にコイツから告白をしたものの、
他に好きな子がいるからと振られた相手だった。
コイツはその時、「ずっと待ってる」と言ってあった。
が、コイツが待っていたのは、彼が自分に惚れる日が来ることではなく、
自分が彼を同じように振れる日が来ることだった。
コイツは散々悩んだふりをしたあげく、少しイイ思いをさせてあげてからの方が、
より強いダメージを与えられるに違いないと、
それだけの理由で、その彼と付き合うことにした。
あの事件の後、高校生であった姉に、
「今度Hする時は、絶対好きな人としなさいね!」と言われたことがあった。
姉には当時、結婚を意識していたほどの恋人がいた。
姉はその恋人と、初体験を済ませていた。
なんて無神経な奴だと思った。好きな人に抱かれる喜びなんて知ったら、
コイツはますます混乱してしまうだろうと思った。
<私はあんな目に遭うのが当然の人間、好きな人となんか一生できない>
そう言い聞かせることで、コイツは何とか平静を装えていたのだ。
目の前の現実に圧倒されぬためには、
そんな風に、自身の願望を無視する他なかった。
そうすることによって、満足はできなくとも、納得ができたのだ。
とは言えそれは、自暴自棄としか呼べぬ状況だった。授業もサボりがちになり、
満点に近い点ばかりを取っていた国語・音楽・美術のテスト結果も、
著しく悪くなって行った。そういった自分への嫌悪感からか、
この頃からコイツは、自らの腕や手を、
コンパスなどで頻繁に傷つけるようになった。
気持ち悪がるだけの友達もいたが、心配してくれる友達もいた。
だけどもコイツは、誰にも心を開こうとはしなかった。
英治に会えれば、それで良かった。
英治の声は、笑顔は、コイツの魂を、優しく撫でてくれるようだった。
しかし、そんなコイツにも、新たな罰が下ろうとしていた。
posted by コイツ at 00:00| U-16【回顧録】2002年12月〜2003年06月に連載。
2003年01月05日
偽装
中2になる頃には、すっかり百合子のグループの一員となっていた。
百合子の傍にいると、毎日がハラハラドキドキの連続だった。
放課後に学校に残り、菓子類を頬張りながら語らうなんてのはざらで、
お兄ちゃんのいる子の家に集まり、無断でアダルトビデオを鑑賞したり、
みんなでテレクラに電話をかけ、相手の男にオナニーをさせて遊んだり、
別々のクラスながら、同じ時間に不調を訴え、保健室で落ち合い、
まんまと一緒に早退させてもらった上、家に帰らずブラブラしたり、
仮病で見学を申し出ておいて、ジャージを着たままプールにダイヴしたり、
弱そうな先輩を待ち伏せし、女教師の時と同様に集団で罵倒したり、
それに飽き足らず、怖めの先輩がタムロっている所に、
名指しで「バカ」だの「ブス」だの書いた紙を投げ込み、
案の定キレられ追っかけ回されたり、手に負えなくなった先輩らが、
卒業生(高校生)達に裁きを依頼し、大騒動になったり……
いずれにしても、主導権は、百合子の手の中に安住していた。
それは、物心ついた頃から支配欲の強かったコイツにとっては、
決して気分のいい状況ではなかった。
しかし、百合子には、全くと言っていいほど歯が立たなかった。
百合子はとにかく、頭の回転が早く、恐れ知らずで、
外見的にも、肌や髪がものすごく綺麗だったりで、
この子は絶対に芸能人になるだろうと思わせるようなオーラを放っていた。
周囲は百合子を見かけるなり、「カワイイ」などと煽てまくり、
百合子自身が戸惑ってしまうくらいだった。
あの当時、校内で百合子の存在を知らぬ者はいなかったんじゃなかろうか。
また、百合子はコイツ以上に気が短く、少しでも頭にきた相手がいると、
「シメんべ!」と、すぐに仲間を誘った。
コイツも何度か立ち会うことになったのだが、
ある日の百合子達の行為には、愕然とするものがあった。
一人の女の子相手に、三人がかりで、
理由もろくに説明しないまま、殴る蹴るの暴行を加えだしたのだ。
話で解決するつもりでいたコイツの意志を遮るように、
「とにかくムカつくんだよ!」という声が飛び、
コイツも思わず、蹴りを入れてしまった。最低だ。
仲間の大半は、逆らったら自分がヤバいと察し、
百合子に賛同しているのだと気付いた。情けなかった。
毎日のように、相談室の名を借りた取調室へと呼ばれた。
それぞれの家まで教師達が押しかけてきたこともあった。
ただ、百合子はその度に、
全ては自分が率先してやったこと、責任は自分にあると、
まるで、怒られるのは自分一人でいいかのような発言を繰り返していた。
実際、百合子はほぼ無関係であった問題まで、
百合子が処理を引き受ける時もあった。コイツら仲間は、
そんな百合子に甘えて、楽しむだけ楽しんでは、肝心な所で逃げた。
コイツは反省すると同時に、この子なら信頼できる、
力になりたい、そう思うようになった。
その日もいつものように、仲間と廊下に座り込んでいた。
そしていつものように、百合子が口を開いた。
「あたし昨日、レイプされかかってる女の人見ちゃった!」
──百合子は笑顔だった。
百合子だけじゃない、そこにいた誰もが、笑顔だった。
コイツもとっさに微笑んだ。
<誰も知らないんだもの、誰にも話してないんだもの、しょうがないよ。
でももう、ここにいる誰にも…>
そこを偶然、英治が通りかかった。
「何話してんの?」
コイツは縋るような、祈るような眼で、英治の顔を見上げた。
「マジで?」
英治は、百合子の話を聞くと、笑った。微笑んでいた……
百合子の傍にいると、毎日がハラハラドキドキの連続だった。
放課後に学校に残り、菓子類を頬張りながら語らうなんてのはざらで、
お兄ちゃんのいる子の家に集まり、無断でアダルトビデオを鑑賞したり、
みんなでテレクラに電話をかけ、相手の男にオナニーをさせて遊んだり、
別々のクラスながら、同じ時間に不調を訴え、保健室で落ち合い、
まんまと一緒に早退させてもらった上、家に帰らずブラブラしたり、
仮病で見学を申し出ておいて、ジャージを着たままプールにダイヴしたり、
弱そうな先輩を待ち伏せし、女教師の時と同様に集団で罵倒したり、
それに飽き足らず、怖めの先輩がタムロっている所に、
名指しで「バカ」だの「ブス」だの書いた紙を投げ込み、
案の定キレられ追っかけ回されたり、手に負えなくなった先輩らが、
卒業生(高校生)達に裁きを依頼し、大騒動になったり……
いずれにしても、主導権は、百合子の手の中に安住していた。
それは、物心ついた頃から支配欲の強かったコイツにとっては、
決して気分のいい状況ではなかった。
しかし、百合子には、全くと言っていいほど歯が立たなかった。
百合子はとにかく、頭の回転が早く、恐れ知らずで、
外見的にも、肌や髪がものすごく綺麗だったりで、
この子は絶対に芸能人になるだろうと思わせるようなオーラを放っていた。
周囲は百合子を見かけるなり、「カワイイ」などと煽てまくり、
百合子自身が戸惑ってしまうくらいだった。
あの当時、校内で百合子の存在を知らぬ者はいなかったんじゃなかろうか。
また、百合子はコイツ以上に気が短く、少しでも頭にきた相手がいると、
「シメんべ!」と、すぐに仲間を誘った。
コイツも何度か立ち会うことになったのだが、
ある日の百合子達の行為には、愕然とするものがあった。
一人の女の子相手に、三人がかりで、
理由もろくに説明しないまま、殴る蹴るの暴行を加えだしたのだ。
話で解決するつもりでいたコイツの意志を遮るように、
「とにかくムカつくんだよ!」という声が飛び、
コイツも思わず、蹴りを入れてしまった。最低だ。
仲間の大半は、逆らったら自分がヤバいと察し、
百合子に賛同しているのだと気付いた。情けなかった。
毎日のように、相談室の名を借りた取調室へと呼ばれた。
それぞれの家まで教師達が押しかけてきたこともあった。
ただ、百合子はその度に、
全ては自分が率先してやったこと、責任は自分にあると、
まるで、怒られるのは自分一人でいいかのような発言を繰り返していた。
実際、百合子はほぼ無関係であった問題まで、
百合子が処理を引き受ける時もあった。コイツら仲間は、
そんな百合子に甘えて、楽しむだけ楽しんでは、肝心な所で逃げた。
コイツは反省すると同時に、この子なら信頼できる、
力になりたい、そう思うようになった。
その日もいつものように、仲間と廊下に座り込んでいた。
そしていつものように、百合子が口を開いた。
「あたし昨日、レイプされかかってる女の人見ちゃった!」
──百合子は笑顔だった。
百合子だけじゃない、そこにいた誰もが、笑顔だった。
コイツもとっさに微笑んだ。
<誰も知らないんだもの、誰にも話してないんだもの、しょうがないよ。
でももう、ここにいる誰にも…>
そこを偶然、英治が通りかかった。
「何話してんの?」
コイツは縋るような、祈るような眼で、英治の顔を見上げた。
「マジで?」
英治は、百合子の話を聞くと、笑った。微笑んでいた……
posted by コイツ at 00:00| U-16【回顧録】2002年12月〜2003年06月に連載。
2003年01月12日
至福
幻滅したが、失望はできなかった。
面白くもないことに笑い、
腹立たしくもないことに怒るような自分にも、徐々に慣れて行った。
小学校時代からの友人・佳奈(仮名)は、そんなコイツの変化に気付き、
やたらとコイツに突っ掛かってくるようになった。
佳奈も同じグループ内にいたのだが、あまり溶け込めてはいなかった。
コイツと佳奈が互いに嫌い合ってることを察した百合子達が、
コイツに配慮してくれた結果だった。
そんな間柄ながら、佳奈とは家が近所だったため、
登下校を共にすることが多かった。
コイツが何より鬱陶しかったのは、佳奈がする英治がらみの話だった。
コイツと英治は、中2で別々のクラスになっていた。
そして、コイツが中1の頃に英治と仲良くしているのを
散々自慢しまくっていた相手・佳奈が、
その英治と中2から同じクラスになったのだ。
まるで仕返しかのごとく、毎日のように、
英治は自分に気がありそうだという話を聞かされた。
しかし、英治は休み時間になると、必ずと言っていいほど、
コイツのクラスへ遊びに来てくれた。コイツは単刀直入に訊いた。
「佳奈のこと好きなの?」
「は? なんで?」
「だって、ちょっかい出されるとか言ってたよ?」
「出してねぇよ」
「足引っ掛けられたとか」
「アイツが勝手に蹴つまずいたんだよ」
「仲良くしちゃヤダ…」
そんな会話をして以来、英治は、コイツの前で、
佳奈に気がないことをアピールするような行動を、何度も取ってくれた。
英治は、一部の女子にとっては、ものすごく感じの悪い奴だった。
「俺、髪の汚い女って嫌いなんだよね」ってな話をした直後に、
傍にいた女の子に向かい、「オマエ髪汚いな!」と言い放ったり、
泣いてる女の子を見かけて、「どうしたの?」と顔を覗き込んでおいて、
「なんだどうでもいい奴か」と吐き捨てて去ったり、
後輩の女の子であろうが、平気で「邪魔」だの「どけ」だの言ったり……
コイツは、そんな英治が、たまらなく好きだった。
そんな英治が、コイツがガムなどをくれとねだると、
「今喰ってんので良かったらあげる」なんて言うのだ。
そんな英治が、「オマエ今日部活出てなかったろ〜」なんて話しかけてくるのだ。
とびきりさわやかな笑顔で。落ちない方が不自然である。
当時のことをこれだけ鮮明に思い出せるという事実が、
当時の英治へのハマり度を物語っている。
コイツはハッキリさせたくなった。「私のこと好きでしょ!」そう断言して、
もっと堂々とイチャついてやりたかった。
そして、中1の頃から付き合っていた彼がいたにも拘らず、
彼にも誰にも何の相談もせずに、英治に告白した。
「私、付き合ってる人いるんだけど、本当に好きなのはオマエ
(そこまで惚れ込んでおきながら、呼び方はこうだった)なんだよね」
そう、実にサラッと。
英治にも、噂で耳にしていた通り、同じ頃に彼女ができていたと知った。
しかし、同じように、好きでもないのに付き合っている状態だと。
「私のことは、どう思ってるの?」
「……恥ずかしくて言えねぇよ」
「何それ」
「……恥ずかしくて言えないってのでわかんない?」
「うん」
「……嫌いじゃないよ」
「じゃぁ、嫌いの逆?」
「おぅ」
「正反対?」
「おぅ(笑)」
──生きてて良かったと思った。生きてみるもんだと思った。その時は思った。
面白くもないことに笑い、
腹立たしくもないことに怒るような自分にも、徐々に慣れて行った。
小学校時代からの友人・佳奈(仮名)は、そんなコイツの変化に気付き、
やたらとコイツに突っ掛かってくるようになった。
佳奈も同じグループ内にいたのだが、あまり溶け込めてはいなかった。
コイツと佳奈が互いに嫌い合ってることを察した百合子達が、
コイツに配慮してくれた結果だった。
そんな間柄ながら、佳奈とは家が近所だったため、
登下校を共にすることが多かった。
コイツが何より鬱陶しかったのは、佳奈がする英治がらみの話だった。
コイツと英治は、中2で別々のクラスになっていた。
そして、コイツが中1の頃に英治と仲良くしているのを
散々自慢しまくっていた相手・佳奈が、
その英治と中2から同じクラスになったのだ。
まるで仕返しかのごとく、毎日のように、
英治は自分に気がありそうだという話を聞かされた。
しかし、英治は休み時間になると、必ずと言っていいほど、
コイツのクラスへ遊びに来てくれた。コイツは単刀直入に訊いた。
「佳奈のこと好きなの?」
「は? なんで?」
「だって、ちょっかい出されるとか言ってたよ?」
「出してねぇよ」
「足引っ掛けられたとか」
「アイツが勝手に蹴つまずいたんだよ」
「仲良くしちゃヤダ…」
そんな会話をして以来、英治は、コイツの前で、
佳奈に気がないことをアピールするような行動を、何度も取ってくれた。
英治は、一部の女子にとっては、ものすごく感じの悪い奴だった。
「俺、髪の汚い女って嫌いなんだよね」ってな話をした直後に、
傍にいた女の子に向かい、「オマエ髪汚いな!」と言い放ったり、
泣いてる女の子を見かけて、「どうしたの?」と顔を覗き込んでおいて、
「なんだどうでもいい奴か」と吐き捨てて去ったり、
後輩の女の子であろうが、平気で「邪魔」だの「どけ」だの言ったり……
コイツは、そんな英治が、たまらなく好きだった。
そんな英治が、コイツがガムなどをくれとねだると、
「今喰ってんので良かったらあげる」なんて言うのだ。
そんな英治が、「オマエ今日部活出てなかったろ〜」なんて話しかけてくるのだ。
とびきりさわやかな笑顔で。落ちない方が不自然である。
当時のことをこれだけ鮮明に思い出せるという事実が、
当時の英治へのハマり度を物語っている。
コイツはハッキリさせたくなった。「私のこと好きでしょ!」そう断言して、
もっと堂々とイチャついてやりたかった。
そして、中1の頃から付き合っていた彼がいたにも拘らず、
彼にも誰にも何の相談もせずに、英治に告白した。
「私、付き合ってる人いるんだけど、本当に好きなのはオマエ
(そこまで惚れ込んでおきながら、呼び方はこうだった)なんだよね」
そう、実にサラッと。
英治にも、噂で耳にしていた通り、同じ頃に彼女ができていたと知った。
しかし、同じように、好きでもないのに付き合っている状態だと。
「私のことは、どう思ってるの?」
「……恥ずかしくて言えねぇよ」
「何それ」
「……恥ずかしくて言えないってのでわかんない?」
「うん」
「……嫌いじゃないよ」
「じゃぁ、嫌いの逆?」
「おぅ」
「正反対?」
「おぅ(笑)」
──生きてて良かったと思った。生きてみるもんだと思った。その時は思った。
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2003年01月15日
転落
自分のことを棚に上げたら、棚ごとブッ倒れて来た。
上機嫌で廊下を歩いていると、やたらと視線を感じた。どれも白い目だ。
「アイツかわいそ〜」「ひっでぇ女」
かろうじて聞き取れた言葉は、いずれも彼の友達から放たれた物だった。
コイツと英治は、ひとまず互いの交際相手と別れる約束をした。
「英治は男の俺から見てもカッコイイもん、しょうがないよ」
コイツが現状を報告した時、彼はさほどショックを受けた様子ではなかったのだが、
そういった余波を受けると、どうやらそうでもなかったということが判り、
ますます気分が良くなった。
コイツは四六時中、英治のことを思い浮かべては、悦に入った。
何も苦しくなどなくなっていた。
誰に会っても、英治のことを話さずにはいられなかった。
もちろん、佳奈にもたっぷりと話してやった。
英治も、すぐに彼女と別れてくれた。
が、それ以降英治は、コイツに会いに来なくなってしまった。
<ま〜た照れちゃってぇ…>最初はそんな風に思った。
しかし、次第に不穏な空気が漂い出していることに気付いた。
英治とコイツの共通の友人である男の子が、
コイツに対し、どこか後ろめたそうな態度でいるのだ。
そして、決定打と言わんばかりの、ある噂を耳にしてしまった。
英治が、コイツとは別の誰かに、交際を申し込んだらしい…
<そんなわけない、そんなはずない、だって…>
でも、それは事実だった。本人に問い詰めてみたところ、事実だと判った。
しかも英治は、その相手をどうしても「言えない」と言うではないか。
「誰なの?」「誰だろう?」コイツは男友達や仲間に聞き回った。
だが、誰一人それを明かそうとしない。皆、知っていて言わずにいるように見えた。
コイツはそこで、勘づかざるを得なかった。
ここまで人を支配下に置ける存在、それは、百合子しかいない。
でも、百合子は嘘をつくような子じゃない、嘘なんかつけない、
もしも百合子なのであれば、絶対に自分から話してくれる。
その百合子の口から出たのは、
「大丈夫! 英治はきっと戻って来る! 応援するよ!」という言葉だった。
百合子はコイツとしっかり目を合わせ、優しく肩を叩いてくれた。
<百合子じゃない、百合子ではない、じゃぁ、一体誰?>
英治から聞き出すのが一番だと思い、やや大げさに泣きながら追及した。
「チエ?」「いや」「ユキ?」「いや」考えられる知り合いの名前を、
次から次へと挙げて行ったものの、英治は一向に頷かない。
残ったのは、あの百合子だけ。まさかと思いつつ、その名を挙げてみた。
「百合子?」
「……うん」
「百合子!?」
「うん」
「あはは! やっぱぁ? 百合子超カワイイもんね!」
「うん」
「ありゃ私なんかじゃ敵いっこないわ!」
「うん」
──怒る気にすらなれなかった。
その日のうちに、百合子に電話をした。
「聞いたよ、本人から」
「あぁ……ゴメン」
「なんで言ってくんなかったの?」
「や……すごい好きだって聞いてたし、どうしても、言えなかった」
「でもさぁ」
「だからゴメンて言ってんじゃん!」
当時百合子には、百合子から告白して付き合いだしたばかりの彼がいた。
コイツは百合子がその彼に本気だったのを知っていたし、
それ以上責めるのはよした。
ただ、寂しくてたまらなかった。それからずっと、誰といても。
親友の好きな男の子に愛されちゃった女の子…主役はやはり、百合子だった。
仲間も皆、百合子に味方した。コイツはどこにいても、居心地が悪かった。
夏休みに転がり込んだ。音楽の宿題は、自由研究とやらだった。
コイツはガンガン曲を作り、それを1本のテープにまとめた。
弱冠14歳とは思えぬ完成度だったらしく、担当の教師は、とても驚いていた。
そして、「将来はシンガーソングライターになるの?」とのコメントをくれた。
コイツはそれまで、作曲なんて誰にでも出来るモンだろうと思っていた。
コイツにとって作曲とは、日常生活の一部に過ぎなかった。
コイツは“将来”という二文字に、胸が高鳴った。
とにかくこれは、このまま続ける価値がありそうな物だと思えたのだ。
健やかなる時も、病める時も。
上機嫌で廊下を歩いていると、やたらと視線を感じた。どれも白い目だ。
「アイツかわいそ〜」「ひっでぇ女」
かろうじて聞き取れた言葉は、いずれも彼の友達から放たれた物だった。
コイツと英治は、ひとまず互いの交際相手と別れる約束をした。
「英治は男の俺から見てもカッコイイもん、しょうがないよ」
コイツが現状を報告した時、彼はさほどショックを受けた様子ではなかったのだが、
そういった余波を受けると、どうやらそうでもなかったということが判り、
ますます気分が良くなった。
コイツは四六時中、英治のことを思い浮かべては、悦に入った。
何も苦しくなどなくなっていた。
誰に会っても、英治のことを話さずにはいられなかった。
もちろん、佳奈にもたっぷりと話してやった。
英治も、すぐに彼女と別れてくれた。
が、それ以降英治は、コイツに会いに来なくなってしまった。
<ま〜た照れちゃってぇ…>最初はそんな風に思った。
しかし、次第に不穏な空気が漂い出していることに気付いた。
英治とコイツの共通の友人である男の子が、
コイツに対し、どこか後ろめたそうな態度でいるのだ。
そして、決定打と言わんばかりの、ある噂を耳にしてしまった。
英治が、コイツとは別の誰かに、交際を申し込んだらしい…
<そんなわけない、そんなはずない、だって…>
でも、それは事実だった。本人に問い詰めてみたところ、事実だと判った。
しかも英治は、その相手をどうしても「言えない」と言うではないか。
「誰なの?」「誰だろう?」コイツは男友達や仲間に聞き回った。
だが、誰一人それを明かそうとしない。皆、知っていて言わずにいるように見えた。
コイツはそこで、勘づかざるを得なかった。
ここまで人を支配下に置ける存在、それは、百合子しかいない。
でも、百合子は嘘をつくような子じゃない、嘘なんかつけない、
もしも百合子なのであれば、絶対に自分から話してくれる。
その百合子の口から出たのは、
「大丈夫! 英治はきっと戻って来る! 応援するよ!」という言葉だった。
百合子はコイツとしっかり目を合わせ、優しく肩を叩いてくれた。
<百合子じゃない、百合子ではない、じゃぁ、一体誰?>
英治から聞き出すのが一番だと思い、やや大げさに泣きながら追及した。
「チエ?」「いや」「ユキ?」「いや」考えられる知り合いの名前を、
次から次へと挙げて行ったものの、英治は一向に頷かない。
残ったのは、あの百合子だけ。まさかと思いつつ、その名を挙げてみた。
「百合子?」
「……うん」
「百合子!?」
「うん」
「あはは! やっぱぁ? 百合子超カワイイもんね!」
「うん」
「ありゃ私なんかじゃ敵いっこないわ!」
「うん」
──怒る気にすらなれなかった。
その日のうちに、百合子に電話をした。
「聞いたよ、本人から」
「あぁ……ゴメン」
「なんで言ってくんなかったの?」
「や……すごい好きだって聞いてたし、どうしても、言えなかった」
「でもさぁ」
「だからゴメンて言ってんじゃん!」
当時百合子には、百合子から告白して付き合いだしたばかりの彼がいた。
コイツは百合子がその彼に本気だったのを知っていたし、
それ以上責めるのはよした。
ただ、寂しくてたまらなかった。それからずっと、誰といても。
親友の好きな男の子に愛されちゃった女の子…主役はやはり、百合子だった。
仲間も皆、百合子に味方した。コイツはどこにいても、居心地が悪かった。
夏休みに転がり込んだ。音楽の宿題は、自由研究とやらだった。
コイツはガンガン曲を作り、それを1本のテープにまとめた。
弱冠14歳とは思えぬ完成度だったらしく、担当の教師は、とても驚いていた。
そして、「将来はシンガーソングライターになるの?」とのコメントをくれた。
コイツはそれまで、作曲なんて誰にでも出来るモンだろうと思っていた。
コイツにとって作曲とは、日常生活の一部に過ぎなかった。
コイツは“将来”という二文字に、胸が高鳴った。
とにかくこれは、このまま続ける価値がありそうな物だと思えたのだ。
健やかなる時も、病める時も。
posted by コイツ at 00:00| U-16【回顧録】2002年12月〜2003年06月に連載。
2003年01月23日
復讐
主役の座を奪おうとしたが、務めたのは悲劇の演出だった。
2学期。英治の視線の先には、まだ百合子がいた。
仲間達も相変わらず、百合子にベッタリだった。
コイツには、百合子達の他にも、仲良くできる友達がいた。
その子達といる方が、遥かに寛げた。
ある日の放課後、コイツは、
百合子とその側近的な位置にいた子がいない隙を見計らって、
仲間達に、グループを抜けたいという意志を告げた。
さぞかし反感を買うだろうと思いきや、
仲間達は皆、コイツを責めないどころか、
「実は私も…」「ホントのこと言うと…」と、
一様に、百合子への不満を並べだすではないか。
それは次第に、百合子がそれぞれの前で言っていた、
それぞれに対する陰口などの、暴露会へと発展した。
コイツはそこで、百合子は、
コイツがベタ惚れしていた英治に交際を申し込まれてしまったということを、
教師も含めたかなり多くの人に、相談だと言っては、
自らしゃべりまくっていたのだと知った。
百合子がコイツに嘘をついたのは、コイツを思いやった結果などではなかった。
もし、本当にそれができたのであれば、そのことを言いふらすことによって、
ますますコイツをミジメな立場に追い込んでしまうことくらい、
容易に察しがついたはずである。
その上百合子は、コイツには絶対に内緒という条件で、
英治と一緒に遊んでいたというのだ。
コイツに「応援する」と言った、あの時期にも。
百合子は、「親友だと思ってる」「信じて」などと、口癖のように言っていた。
グループ内の、誰に対しても。
後ろめたいことのある奴に限って、信じるということを強要する。
あからさまに信じられたがる奴ほど、疑わしい奴はいない。そう学んだ。
声を荒立てながらも、どこか開放感に満ちた顔つきの仲間達。
コイツは正直、嬉しかった。結局、一人では怖かったのだろう。
黙って抜けるという手だってあったわけで。
「ねぇ、明日からもう、百合子シカトしない?」
そう言ったコイツに、そこにいた全員が、賛成してくれた。
集団心理というものは、実にパワフルで恐ろしい。
翌日からコイツらは、見事に百合子をシカトしだした。
そして、かつて百合子にシメられたことがあるような子達も仲間に引き入れ、
徹底的に、百合子を孤立させるという策に出た。
百合子の側近的な位置にいた子はもちろん、百合子と交際中であった人さえも、
コイツらの手で、百合子から離れさせた。
調子に乗ったコイツらは、そこで気が済むわけなどなかった。
中傷文を書いた紙を学年中に回すわ、机に油性ペンで落書きするわ、
上履きの中に整髪用のジェルを流し込むわ、ロッカーにゴミを突っ込むわ……
特に酷かったのは、百合子が登校してきた際や休み時間に沸き起こる、
「帰れ」コールや「死ね」コールだった。
複数の女子(時には男子も)が一斉に、
「か〜え〜れ! か〜え〜れ!」「し〜ね! し〜ね!」と、
手を叩いて大合唱するのだ。繰り返し繰り返し。
状況はまさに一変した。
が、それらはいずれも、面と向かってや1対1では、
誰も百合子に勝てないのだと認めるようなものだった。
百合子は、そんなコイツらの弱さを見透かしているかのように、
平然とした態度を貫き、ツラそうな表情一つ浮かべなかった。
どんな原因があったにせよ、百合子はもはや被害者だった。
どんな事情があるにせよ、コイツはもう、
加害者としか呼びようのない域に達していた。
僕は結びたがる。
自分の周辺にあるもの全てを、一つに繋げようとする。
糸が絡まり、やがて己の首を絞めようとも、
しぼり出された悲しみに、微笑みかけるだけ。
2学期。英治の視線の先には、まだ百合子がいた。
仲間達も相変わらず、百合子にベッタリだった。
コイツには、百合子達の他にも、仲良くできる友達がいた。
その子達といる方が、遥かに寛げた。
ある日の放課後、コイツは、
百合子とその側近的な位置にいた子がいない隙を見計らって、
仲間達に、グループを抜けたいという意志を告げた。
さぞかし反感を買うだろうと思いきや、
仲間達は皆、コイツを責めないどころか、
「実は私も…」「ホントのこと言うと…」と、
一様に、百合子への不満を並べだすではないか。
それは次第に、百合子がそれぞれの前で言っていた、
それぞれに対する陰口などの、暴露会へと発展した。
コイツはそこで、百合子は、
コイツがベタ惚れしていた英治に交際を申し込まれてしまったということを、
教師も含めたかなり多くの人に、相談だと言っては、
自らしゃべりまくっていたのだと知った。
百合子がコイツに嘘をついたのは、コイツを思いやった結果などではなかった。
もし、本当にそれができたのであれば、そのことを言いふらすことによって、
ますますコイツをミジメな立場に追い込んでしまうことくらい、
容易に察しがついたはずである。
その上百合子は、コイツには絶対に内緒という条件で、
英治と一緒に遊んでいたというのだ。
コイツに「応援する」と言った、あの時期にも。
百合子は、「親友だと思ってる」「信じて」などと、口癖のように言っていた。
グループ内の、誰に対しても。
後ろめたいことのある奴に限って、信じるということを強要する。
あからさまに信じられたがる奴ほど、疑わしい奴はいない。そう学んだ。
声を荒立てながらも、どこか開放感に満ちた顔つきの仲間達。
コイツは正直、嬉しかった。結局、一人では怖かったのだろう。
黙って抜けるという手だってあったわけで。
「ねぇ、明日からもう、百合子シカトしない?」
そう言ったコイツに、そこにいた全員が、賛成してくれた。
集団心理というものは、実にパワフルで恐ろしい。
翌日からコイツらは、見事に百合子をシカトしだした。
そして、かつて百合子にシメられたことがあるような子達も仲間に引き入れ、
徹底的に、百合子を孤立させるという策に出た。
百合子の側近的な位置にいた子はもちろん、百合子と交際中であった人さえも、
コイツらの手で、百合子から離れさせた。
調子に乗ったコイツらは、そこで気が済むわけなどなかった。
中傷文を書いた紙を学年中に回すわ、机に油性ペンで落書きするわ、
上履きの中に整髪用のジェルを流し込むわ、ロッカーにゴミを突っ込むわ……
特に酷かったのは、百合子が登校してきた際や休み時間に沸き起こる、
「帰れ」コールや「死ね」コールだった。
複数の女子(時には男子も)が一斉に、
「か〜え〜れ! か〜え〜れ!」「し〜ね! し〜ね!」と、
手を叩いて大合唱するのだ。繰り返し繰り返し。
状況はまさに一変した。
が、それらはいずれも、面と向かってや1対1では、
誰も百合子に勝てないのだと認めるようなものだった。
百合子は、そんなコイツらの弱さを見透かしているかのように、
平然とした態度を貫き、ツラそうな表情一つ浮かべなかった。
どんな原因があったにせよ、百合子はもはや被害者だった。
どんな事情があるにせよ、コイツはもう、
加害者としか呼びようのない域に達していた。
僕は結びたがる。
自分の周辺にあるもの全てを、一つに繋げようとする。
糸が絡まり、やがて己の首を絞めようとも、
しぼり出された悲しみに、微笑みかけるだけ。
posted by コイツ at 00:00| U-16【回顧録】2002年12月〜2003年06月に連載。
2003年01月27日
完敗
意地でも乗らない。それこそが勝利を意味するゲームがある。
百合子は賢かった。
イジメの被害者である人間が、自らの苦悩をぶちまけ、
「イジメは良くない!」などと訴えたとしても、
イジメの加害者である人間は、
そんな風にジタバタする姿を見ることこそが楽しみなわけで、
イジメを阻止するということには、まるで繋がらないのである。
百合子はそれをよく解っていた。
肝心なのはそう、つまらないと思わせることで。
一方コイツは、どこまでも愚かだった。
孤独ながら自由になった百合子に、英治が再び交際を申し込み、
二人は付き合いだしてしまった。
王子様のごとく、はたまたヒーローのごとく、
今が出番とばかりに、とことん百合子を守ろうとする英治。
コイツが百合子を憎めば憎むほど、二人の距離は近づいて行くようだった。
そう、状況はまさに一変したのだ。
英治は、たった一人でコイツらのもとへズカズカと歩いてきて、
「なんなんだよオマエら」と、冷たく言い放った。
仲間達がすぐに適当なことを言い返してくれたが、
コイツは割れた瓶を胸に突き刺されたような感覚に陥り、
顔を上げることすらできずにいた。
「なんなの?」鋭い視線がコイツに向いたのが判った。
恐る恐る、そっちの方を見た。そこにいたのは、
コイツと戯れ合っていた頃とは別人のような顔をした、英治だった。
何も言えなかった。コイツは黙ったまま、ただ背を向けた。
英治が百合子を庇いだしたことによって、一連の騒動は、
コイツが百合子に嫉妬したことが発端だという認識が広まった。
それだけじゃない、かつて百合子が率先してやらかしたことまで、
実はコイツが黒幕として動いていたに違いないと囁かれるようになった。
「みんな、幸せになりたいんだよ。それだけ」
頼みもしないのに同情してくる者達に対し、百合子は繰り返し、
そう言っていたという。そんな姿に一層胸を打たれてか、
百合子の側に回る者は、またジワジワと増えて行った。
コイツは、そんな状況に不快を示してくれる仲間達に囲まれていたものの、
大好きだった英治に、生きる支えであった英治に、
ゴミを投げ付けられたり、ツバを吐き捨てられたりする毎日だった。
家に帰り、部屋で一人になっては、まぶたが腫れ上がるほど泣いた。
英治と百合子の間には、コイツが理想としていた愛の形があった。
過去なんて関係ない、正しくなくてもいい、
好きだから傍にいたい、どんな時も味方でいる、誰が何と言おうと……
「百合子の奴、今日も笑ってやがったぞぉ!」
「ムカつくー!」
放課後の教室で、いつも通り盛り上がっている仲間達。
誰の方を見るでもなく、コイツは呟いた。
「自殺すればいいんじゃない? この中の誰かが死ねば」
一瞬にして、その場が静まり返った。
「そうすれば、少しは反省するよ、きっと」
コイツには、笑顔がなかった。
心底から百合子を憎んでいたのは、コイツだけだった。
教師達に呼び出され、内申書のことなどをチラつかされたとたん、
コロッと態度を変えた奴らがいた。
「もうこんなことはしないと誓う奴は手を挙げろ」と言われ、
あっさりと手を挙げたそいつらは、いずれも、
一際百合子を悪く言い、一際コイツを持ち上げていたような奴だった。
また、コイツが知らない所で、
全てはコイツに脅されてやっているなどとヌかし、
ちゃっかり百合子に謝っていた奴もいた。
コイツは愚かだった。本当に愚かだった。
利用していたつもりが、されていたのだ。完璧なまでに。
ガッカリしたと同時に、そんな仲間達に、
少なからず希望を見い出していた自分に気付かされた。
コイツは愚かだった。芸術的なくらい、愚かだった。
仲間のやったことで呼び出されて、弁解する暇もなく突き飛ばされた。
「オマエのこと買ってるからつい」なんて謝られたけど、
誰にでもそんな風に言ってる奴だった。
百合子は賢かった。
イジメの被害者である人間が、自らの苦悩をぶちまけ、
「イジメは良くない!」などと訴えたとしても、
イジメの加害者である人間は、
そんな風にジタバタする姿を見ることこそが楽しみなわけで、
イジメを阻止するということには、まるで繋がらないのである。
百合子はそれをよく解っていた。
肝心なのはそう、つまらないと思わせることで。
一方コイツは、どこまでも愚かだった。
孤独ながら自由になった百合子に、英治が再び交際を申し込み、
二人は付き合いだしてしまった。
王子様のごとく、はたまたヒーローのごとく、
今が出番とばかりに、とことん百合子を守ろうとする英治。
コイツが百合子を憎めば憎むほど、二人の距離は近づいて行くようだった。
そう、状況はまさに一変したのだ。
英治は、たった一人でコイツらのもとへズカズカと歩いてきて、
「なんなんだよオマエら」と、冷たく言い放った。
仲間達がすぐに適当なことを言い返してくれたが、
コイツは割れた瓶を胸に突き刺されたような感覚に陥り、
顔を上げることすらできずにいた。
「なんなの?」鋭い視線がコイツに向いたのが判った。
恐る恐る、そっちの方を見た。そこにいたのは、
コイツと戯れ合っていた頃とは別人のような顔をした、英治だった。
何も言えなかった。コイツは黙ったまま、ただ背を向けた。
英治が百合子を庇いだしたことによって、一連の騒動は、
コイツが百合子に嫉妬したことが発端だという認識が広まった。
それだけじゃない、かつて百合子が率先してやらかしたことまで、
実はコイツが黒幕として動いていたに違いないと囁かれるようになった。
「みんな、幸せになりたいんだよ。それだけ」
頼みもしないのに同情してくる者達に対し、百合子は繰り返し、
そう言っていたという。そんな姿に一層胸を打たれてか、
百合子の側に回る者は、またジワジワと増えて行った。
コイツは、そんな状況に不快を示してくれる仲間達に囲まれていたものの、
大好きだった英治に、生きる支えであった英治に、
ゴミを投げ付けられたり、ツバを吐き捨てられたりする毎日だった。
家に帰り、部屋で一人になっては、まぶたが腫れ上がるほど泣いた。
英治と百合子の間には、コイツが理想としていた愛の形があった。
過去なんて関係ない、正しくなくてもいい、
好きだから傍にいたい、どんな時も味方でいる、誰が何と言おうと……
「百合子の奴、今日も笑ってやがったぞぉ!」
「ムカつくー!」
放課後の教室で、いつも通り盛り上がっている仲間達。
誰の方を見るでもなく、コイツは呟いた。
「自殺すればいいんじゃない? この中の誰かが死ねば」
一瞬にして、その場が静まり返った。
「そうすれば、少しは反省するよ、きっと」
コイツには、笑顔がなかった。
心底から百合子を憎んでいたのは、コイツだけだった。
教師達に呼び出され、内申書のことなどをチラつかされたとたん、
コロッと態度を変えた奴らがいた。
「もうこんなことはしないと誓う奴は手を挙げろ」と言われ、
あっさりと手を挙げたそいつらは、いずれも、
一際百合子を悪く言い、一際コイツを持ち上げていたような奴だった。
また、コイツが知らない所で、
全てはコイツに脅されてやっているなどとヌかし、
ちゃっかり百合子に謝っていた奴もいた。
コイツは愚かだった。本当に愚かだった。
利用していたつもりが、されていたのだ。完璧なまでに。
ガッカリしたと同時に、そんな仲間達に、
少なからず希望を見い出していた自分に気付かされた。
コイツは愚かだった。芸術的なくらい、愚かだった。
仲間のやったことで呼び出されて、弁解する暇もなく突き飛ばされた。
「オマエのこと買ってるからつい」なんて謝られたけど、
誰にでもそんな風に言ってる奴だった。
posted by コイツ at 00:00| U-16【回顧録】2002年12月〜2003年06月に連載。
2003年02月11日
一生モノの傷と、一生モノの友 〜前編〜
心を開ける相手というのは、気付いたら開けていた相手のことを指すのだろう。
「友達だったら何でも言えるよね」
「や、友達でも言えないことだってあるよ」
仲良くしていた頃から、百合子とコイツの意見は、真っ向からぶつかることがあった。
ある日の夜、仲間の一人・由樹(仮名)が、
実は自分にも話しにくいことがあるということを話してくれた。コイツだけに。
由樹はコイツのそれが気になってしょうがないようだった。
<この子は絶対に何かある!>
由樹がそう確信したのは、学校に、コイツの父親と名乗る若い男から、
コイツがいるかどうか確認する電話があった時だったという。
コイツは、その電話に出た教師が、
イタズラだと思いつつも、「今文化祭の準備で…」と、
コイツがこの中学に今も通っていることを教えるような応対をしたことに、
激怒してしまった。それは、事件から一年後くらいのことだった。
犯人はまだ捕まっていなかった。
コイツは犯人に、所持品から名前などを割り出されていた。
あの男が殺しに来ると思わずにはいられず、
半端じゃない恐怖心と、その理由を説明できないもどかしさの中、
涙目で教師を責めていたコイツの姿を見た由樹は、
コイツに対し、それまで持っていた“とびきり明るい子”というイメージを捨てた。
翳りのある奴にだけ感じ取れる翳りとやらが存在するのだろうか。
コイツは初めて、家族や警察以外の人間に、事件のことを打ち明けることができた。
由樹も、それを聞いてホッとしたかのように、
自らの境遇について、どんどん打ち明けだした。
同じグループ内にいながら、さほど親しくしてこなかった二人が、
日が昇るまで、延々と語り合っていた。
その時コイツは、死ぬまで消えそうにない傷跡と、
死ぬまで冷めそうにない友情を見つけたような気がした。
由樹の母親は、由樹が物心ついた頃から、精神科に入院していた。
原因は、由樹の父親にあった。由樹の父親は、本当にどうしようもない奴だった。
まず、滅多に家に帰らない。
収入があっても、その金を家族のために使うことなど一切ない。
借金の取り立てが来ようと、電気やガスを止められようと、
子供達が食べる物に困っていようとだ。
金のない時にだけ帰ってきて、由樹の兄の入学費も、母親の貯金も、
全部オノレの道楽に注ぎ込みやがった。
心を病んでしまった由樹の母親は、常に涙もろく、指先が震えていて、
時には暴れることもあり、牢屋のような病室に入れられていた。
離婚という話にもなったが、二人の子供である由樹としては、
<お互いが幸せになれるならいい、でも泣きながら別れるのはヤダ>
という思いがあり、反対し続けていたという。
幼い頃は、母親が自殺未遂をする度に、
寂しさから、母親を引き止めることに必死になった由樹だったが、
「お兄ちゃんと由樹がいるから生きる」「あなた達を産んだことを後悔してる」
「あの時、殺そうと思った。一緒に死のうと思った」などと、
何度も何度も言われるうち、
自分が母親を苦しめているような感覚に陥らざるを得なかった。
10年以上もの間、由樹の父親と母親は、会話すらせず、
状況は一向に変わってくれなかった。
由樹は次第に、自分の母親に対し、
<この人は死んだ方がいい、早くラクになってほしい>
そう思うようになっていた。
引き止める自分のせいで、これ以上苦しんでほしくなかったのだ。
そんな愛もある。コイツはそう言い切りたい。
そして、その時は来た。
「友達だったら何でも言えるよね」
「や、友達でも言えないことだってあるよ」
仲良くしていた頃から、百合子とコイツの意見は、真っ向からぶつかることがあった。
ある日の夜、仲間の一人・由樹(仮名)が、
実は自分にも話しにくいことがあるということを話してくれた。コイツだけに。
由樹はコイツのそれが気になってしょうがないようだった。
<この子は絶対に何かある!>
由樹がそう確信したのは、学校に、コイツの父親と名乗る若い男から、
コイツがいるかどうか確認する電話があった時だったという。
コイツは、その電話に出た教師が、
イタズラだと思いつつも、「今文化祭の準備で…」と、
コイツがこの中学に今も通っていることを教えるような応対をしたことに、
激怒してしまった。それは、事件から一年後くらいのことだった。
犯人はまだ捕まっていなかった。
コイツは犯人に、所持品から名前などを割り出されていた。
あの男が殺しに来ると思わずにはいられず、
半端じゃない恐怖心と、その理由を説明できないもどかしさの中、
涙目で教師を責めていたコイツの姿を見た由樹は、
コイツに対し、それまで持っていた“とびきり明るい子”というイメージを捨てた。
翳りのある奴にだけ感じ取れる翳りとやらが存在するのだろうか。
コイツは初めて、家族や警察以外の人間に、事件のことを打ち明けることができた。
由樹も、それを聞いてホッとしたかのように、
自らの境遇について、どんどん打ち明けだした。
同じグループ内にいながら、さほど親しくしてこなかった二人が、
日が昇るまで、延々と語り合っていた。
その時コイツは、死ぬまで消えそうにない傷跡と、
死ぬまで冷めそうにない友情を見つけたような気がした。
由樹の母親は、由樹が物心ついた頃から、精神科に入院していた。
原因は、由樹の父親にあった。由樹の父親は、本当にどうしようもない奴だった。
まず、滅多に家に帰らない。
収入があっても、その金を家族のために使うことなど一切ない。
借金の取り立てが来ようと、電気やガスを止められようと、
子供達が食べる物に困っていようとだ。
金のない時にだけ帰ってきて、由樹の兄の入学費も、母親の貯金も、
全部オノレの道楽に注ぎ込みやがった。
心を病んでしまった由樹の母親は、常に涙もろく、指先が震えていて、
時には暴れることもあり、牢屋のような病室に入れられていた。
離婚という話にもなったが、二人の子供である由樹としては、
<お互いが幸せになれるならいい、でも泣きながら別れるのはヤダ>
という思いがあり、反対し続けていたという。
幼い頃は、母親が自殺未遂をする度に、
寂しさから、母親を引き止めることに必死になった由樹だったが、
「お兄ちゃんと由樹がいるから生きる」「あなた達を産んだことを後悔してる」
「あの時、殺そうと思った。一緒に死のうと思った」などと、
何度も何度も言われるうち、
自分が母親を苦しめているような感覚に陥らざるを得なかった。
10年以上もの間、由樹の父親と母親は、会話すらせず、
状況は一向に変わってくれなかった。
由樹は次第に、自分の母親に対し、
<この人は死んだ方がいい、早くラクになってほしい>
そう思うようになっていた。
引き止める自分のせいで、これ以上苦しんでほしくなかったのだ。
そんな愛もある。コイツはそう言い切りたい。
そして、その時は来た。
posted by コイツ at 00:00| U-16【回顧録】2002年12月〜2003年06月に連載。
2003年02月16日
一生モノの傷と、一生モノの友 〜後編〜
「お母さんが、死んじゃった…」
受話器の向こうで泣いていたのは、由樹だった。
年が明けて間もない日の出来事だった。
由樹の母親は、毎年お正月頃になると、
リハビリとして、一週間ほど家に帰ることを許されていた。
その年も、初めのうちは寝込んでいるか
虚ろに一点を見つめているかといった感じで、
特に例年と変わった様子はなかった。しかし、日が経つにつれ、
「病院には帰りたくない」「生きてる心地がしない」などと溢す回数が増え、
その夜、「ゴミ捨てに行って来る」と言って、一人で家を出て行った。
由樹は胸騒ぎを覚えたものの、
本人がゴミ捨てだと言った以上、ついて行くのはどうかと思い、
5分か10分して戻らなかったら、迎えに行くことにした。
5分が過ぎた。戻らない。10分が過ぎた。戻らない。
由樹は近所にある2ヵ所のゴミ捨て場を見に行った。が、そこには気配すらない。
「お母さん、死ぬかもしれない…」由樹が親戚に電話をかけている間、
当時高1だった由樹の兄が、母親を捜し回った。
無論、父親とは連絡がつかない。
高速道路の上に架かる、高さ10メートルはあろう橋の上が、
何やら騒々しくなっていた。人集り…警察…
由樹の母親は、そこから飛び降り、トラック4台に轢かれ、すでに亡くなっていた。
身元確認をしたのは、由樹の兄だった。
母親の顔は、原形をとどめていなかった。
しかし、その遺体が身に付けていたジャンパーは、
由樹が最後に見た母親が着ていた物と一致した。
その一件は新聞に掲載され、それを読んだ仲間の一人(裏切りの挙手をした奴)は、
「あれ由樹んち!?」と、笑いながら由樹に電話をかけた。
由樹は「違う」と言い張った。
由樹はとにかく、誰にもそのことに触れてほしくなかった。
にも拘らず、近所の住民が勝手に学校へ報告し、
通夜には教師や話したこともないような生徒達が押しかけて来た。
3学期になってすぐに配られた校内の新聞にも、そのことは載っていた。
「2年○組の○○由樹さんの…」と、由樹に何の相談もナシにだ。
笑うしかなくなっていた由樹に、クラスメイトの男子が追い討ちをかけた。
「オマエ、親が死んだのによく笑えるな」──由樹はその日、早退した。
どこかで見たような光景だった。そう、小2の頃だ。
コイツにとっては2度目だった。
コイツを心から慕ってくれる子をこの世に産んでくれた人が、
自ら命を絶ってしまうという経験は。
複雑な気持ちだった。あの子の母親は、自分の体に火をつけた。
二人とも、よりによって、なぜそんなにも無惨な死に方を選んでしまったのか。
それほどまでに、自分が憎かったと言うのか。
あの子も由樹も、とても悲しんでいた。
だが、自らの意志で逝った母親を責めることなど、一切なかった。
母親はもう、充分に責められていたのだ。何よりも、母親自身に。
由樹は、悲しむ自分の方がワガママだと言っていた。
「あなたのためを思って」などと言いながら、
頼まれてもないことをドシドシとやった挙げ句、
見返りを求めるような奴とは大違いだ。
「優」という字は、「傷」という字と似ている。
コイツも由樹も、自分を「生きてちゃいけない人間」と思わずにはいられなかった。
でも、生きた。生きたから、出会えた。
受話器の向こうで泣いていたのは、由樹だった。
年が明けて間もない日の出来事だった。
由樹の母親は、毎年お正月頃になると、
リハビリとして、一週間ほど家に帰ることを許されていた。
その年も、初めのうちは寝込んでいるか
虚ろに一点を見つめているかといった感じで、
特に例年と変わった様子はなかった。しかし、日が経つにつれ、
「病院には帰りたくない」「生きてる心地がしない」などと溢す回数が増え、
その夜、「ゴミ捨てに行って来る」と言って、一人で家を出て行った。
由樹は胸騒ぎを覚えたものの、
本人がゴミ捨てだと言った以上、ついて行くのはどうかと思い、
5分か10分して戻らなかったら、迎えに行くことにした。
5分が過ぎた。戻らない。10分が過ぎた。戻らない。
由樹は近所にある2ヵ所のゴミ捨て場を見に行った。が、そこには気配すらない。
「お母さん、死ぬかもしれない…」由樹が親戚に電話をかけている間、
当時高1だった由樹の兄が、母親を捜し回った。
無論、父親とは連絡がつかない。
高速道路の上に架かる、高さ10メートルはあろう橋の上が、
何やら騒々しくなっていた。人集り…警察…
由樹の母親は、そこから飛び降り、トラック4台に轢かれ、すでに亡くなっていた。
身元確認をしたのは、由樹の兄だった。
母親の顔は、原形をとどめていなかった。
しかし、その遺体が身に付けていたジャンパーは、
由樹が最後に見た母親が着ていた物と一致した。
その一件は新聞に掲載され、それを読んだ仲間の一人(裏切りの挙手をした奴)は、
「あれ由樹んち!?」と、笑いながら由樹に電話をかけた。
由樹は「違う」と言い張った。
由樹はとにかく、誰にもそのことに触れてほしくなかった。
にも拘らず、近所の住民が勝手に学校へ報告し、
通夜には教師や話したこともないような生徒達が押しかけて来た。
3学期になってすぐに配られた校内の新聞にも、そのことは載っていた。
「2年○組の○○由樹さんの…」と、由樹に何の相談もナシにだ。
笑うしかなくなっていた由樹に、クラスメイトの男子が追い討ちをかけた。
「オマエ、親が死んだのによく笑えるな」──由樹はその日、早退した。
どこかで見たような光景だった。そう、小2の頃だ。
コイツにとっては2度目だった。
コイツを心から慕ってくれる子をこの世に産んでくれた人が、
自ら命を絶ってしまうという経験は。
複雑な気持ちだった。あの子の母親は、自分の体に火をつけた。
二人とも、よりによって、なぜそんなにも無惨な死に方を選んでしまったのか。
それほどまでに、自分が憎かったと言うのか。
あの子も由樹も、とても悲しんでいた。
だが、自らの意志で逝った母親を責めることなど、一切なかった。
母親はもう、充分に責められていたのだ。何よりも、母親自身に。
由樹は、悲しむ自分の方がワガママだと言っていた。
「あなたのためを思って」などと言いながら、
頼まれてもないことをドシドシとやった挙げ句、
見返りを求めるような奴とは大違いだ。
「優」という字は、「傷」という字と似ている。
コイツも由樹も、自分を「生きてちゃいけない人間」と思わずにはいられなかった。
でも、生きた。生きたから、出会えた。
posted by コイツ at 00:00| U-16【回顧録】2002年12月〜2003年06月に連載。
2003年02月22日
割れ物
そう、それはただでさえ、多感な時期だった。
コイツらによるイジメが止んだ頃から、百合子と英治の仲は危うくなった。
それがあってこそ成り立った関係だったのだろう。
百合子は英治と別れ、英治の友人と付き合いだした。
コイツはずっと、英治に守ってもらえる百合子が、羨ましくてしょうがなかった。
英治の傍にいられるなら、それだけで幸せなはずだと思っていた。
でも、それはあくまでも、コイツが英治を必要としていたからの話であって、
百合子にとっては、英治よりも、離れて行った仲間達や彼氏の方が、
遥かに大切な存在だったのだ。実際は、苦痛でないわけがなかった。
百合子は数年後に、あの頃の夢を繰り返し見てしまったり、
自傷行為に及ばずにいられなくなったりと、かなり苛酷な日々を過ごした。
中学卒業後、百合子から連絡が来なければ、
コイツは今でも百合子を、「強い人間」と決め付けていたかもしれない。
どんなに頑丈そうなものであろうと、そのまま壊れないというのは、
とても不自然なことなのだろう。
中3の春、やけに愛想のない男から電話が来た。
両親に用件があるようだったため、内線ボタンを押し、親機へと繋いだ。
母親が出たのを確認し、置こうとした受話器から、二人の会話が漏れてきた。
コイツは思わず、聞き耳を立てた。男の正体は、警察だった。
あの事件の犯人が、別件で逮捕されたとの報告だった。
「ずっと気に掛かってました…」
母親のか細い声が、頭の中にこだました。
<ずっと? ずっと気に?>
全身の力が抜け、その場に倒れ込んだ。
<私の精一杯の笑顔は何だったの?
いったい誰のために、何事もなかったように振る舞ってきたと思う?
これ以上あなた達に心配かけたくなかったから、
あなた達の前でだけは、明るさを保とうと頑張ってきたんじゃない…>
泣いて泣いて、泣いた。
<私のせい、ぜんぶ私のせい、私さえいなければ…>
自分の髪をひたすら掻き毟っている自分がいた。
もう愛さないでほしかった。愛してもらいたくなかった。
コイツは苦しめることでしか、愛されていることを実感できなかった。
<ねぇ、私は生きててもいいの? オマエに聞きたいよ…>
壊れるものならば、一刻も早く壊してしまいたいものだらけだった。
ちょっとでも気を抜けば、悲嘆と虚しさの渦に飲み込まれる。
疲れ果てるまで、もがき続けるっきゃない。
脳みそホテルが散らかって、ガラクタだらけ。
片付けようとすると埃が舞って、
かけがえのない物すら見失いそうになる。
いきなり暗闇に放り込まれ、
身動きが取れなくなる恐怖だけが、
脳裏を支配し続ける。
僕の枕元には、狂った時、その勢いで死ねるように、
いつもよく切れるカミソリが置いてあった。
ある日、布団を干した母親が、それを見つけた。
ふかふかの布団の傍に、それはなかった。
でも、僕はまさか、「僕のカミソリどこにやったんだ!」
なんて怒るわけにもいかず、
気まずい、気まずい、気まずい空気が流れた。
コイツらによるイジメが止んだ頃から、百合子と英治の仲は危うくなった。
それがあってこそ成り立った関係だったのだろう。
百合子は英治と別れ、英治の友人と付き合いだした。
コイツはずっと、英治に守ってもらえる百合子が、羨ましくてしょうがなかった。
英治の傍にいられるなら、それだけで幸せなはずだと思っていた。
でも、それはあくまでも、コイツが英治を必要としていたからの話であって、
百合子にとっては、英治よりも、離れて行った仲間達や彼氏の方が、
遥かに大切な存在だったのだ。実際は、苦痛でないわけがなかった。
百合子は数年後に、あの頃の夢を繰り返し見てしまったり、
自傷行為に及ばずにいられなくなったりと、かなり苛酷な日々を過ごした。
中学卒業後、百合子から連絡が来なければ、
コイツは今でも百合子を、「強い人間」と決め付けていたかもしれない。
どんなに頑丈そうなものであろうと、そのまま壊れないというのは、
とても不自然なことなのだろう。
中3の春、やけに愛想のない男から電話が来た。
両親に用件があるようだったため、内線ボタンを押し、親機へと繋いだ。
母親が出たのを確認し、置こうとした受話器から、二人の会話が漏れてきた。
コイツは思わず、聞き耳を立てた。男の正体は、警察だった。
あの事件の犯人が、別件で逮捕されたとの報告だった。
「ずっと気に掛かってました…」
母親のか細い声が、頭の中にこだました。
<ずっと? ずっと気に?>
全身の力が抜け、その場に倒れ込んだ。
<私の精一杯の笑顔は何だったの?
いったい誰のために、何事もなかったように振る舞ってきたと思う?
これ以上あなた達に心配かけたくなかったから、
あなた達の前でだけは、明るさを保とうと頑張ってきたんじゃない…>
泣いて泣いて、泣いた。
<私のせい、ぜんぶ私のせい、私さえいなければ…>
自分の髪をひたすら掻き毟っている自分がいた。
もう愛さないでほしかった。愛してもらいたくなかった。
コイツは苦しめることでしか、愛されていることを実感できなかった。
<ねぇ、私は生きててもいいの? オマエに聞きたいよ…>
壊れるものならば、一刻も早く壊してしまいたいものだらけだった。
ちょっとでも気を抜けば、悲嘆と虚しさの渦に飲み込まれる。
疲れ果てるまで、もがき続けるっきゃない。
脳みそホテルが散らかって、ガラクタだらけ。
片付けようとすると埃が舞って、
かけがえのない物すら見失いそうになる。
いきなり暗闇に放り込まれ、
身動きが取れなくなる恐怖だけが、
脳裏を支配し続ける。
僕の枕元には、狂った時、その勢いで死ねるように、
いつもよく切れるカミソリが置いてあった。
ある日、布団を干した母親が、それを見つけた。
ふかふかの布団の傍に、それはなかった。
でも、僕はまさか、「僕のカミソリどこにやったんだ!」
なんて怒るわけにもいかず、
気まずい、気まずい、気まずい空気が流れた。
posted by コイツ at 00:00| U-16【回顧録】2002年12月〜2003年06月に連載。
2003年03月13日
解凍
明日があるだなんて、とても思えなかった。
コイツの魂の半分は、まだ英治への想いが支えているようなものだった。
「バ〜カ」と叫ばれたきり、ずっと聴けずにいた声が、
無性に恋しくなったコイツは、再び冷たくされ、
頭のてっぺんでベートーヴェンが暴れることも覚悟の上で、英治の家に電話をした。
恐る恐る話すコイツとは対照的に、のっけから淡々とした口調だった英治は、
一連の騒動についても、「俺が悪いんだよ」と、当たり前のごとく言い切った。
百合子に対する未練のなさは、呆れたくなるほどだった。
コイツは自分の心拍数が上がっていることに気付きながらも、
それは恋愛感情なんかの仕業ではないと思い込むのに必死だった。
「オマエ、卒業式、第2ボタンちょうだいよ」
「あぁ、べつにいいよ」
電話を切る頃には、すっかり仲良しだった頃の調子に戻っている二人がいた。
英治は相変わらず、どこか取っ付きにくさを感じさせる面の多い存在だったものの、
コイツのことは、「しゃべってて飽きない」と言ってくれた。
それからコイツは、度々英治と電話で話すようになった。
<私の過去を知ったとしても、アイツは変わらずにいてくれるんだろうか…>
次第に、そんな不安が胸に去来するようになった。
軽蔑されると思った。そしてまた遠のいてしまうんじゃないかと。
でも、話さなきゃいけないことのような気がした。
英治がいたから生きて来れたのだと伝えたかった。
中3の6月。コイツはありったけの勇気を使い、英治にその話を切り出した。
「私さぁ…中1ん時、自殺未遂した」
「それ、他に誰か知ってる?」
「うん、由樹が知ってるけど……ケーベツした?」
「いや。なんでそんなことしたの?」
「あぁ…それが…私、殺されかけたんだわ、首絞められて」
「ウソ…」
「嘘だと思うんなら、それでいいよ」
「誰に…」
「全然知らない人。中1ん時の、10月1日。
次の日は学校休んだはず。警察行ってて」
「あぁ…」
「怖くてたまんなかった。ホントに死ぬって思って。
見ず知らずの男に、ナイフまで突き付けられて……」
「んでソイツどうなったの?」
「最近んなって捕まったらしい」
コイツはその時初めて、本当に憎むべき相手は、“ソイツ”なのだと思えた。
“ソイツ”への怒りを露にしてくれたのは、英治だけだった。
「あん時、何とか家帰って、涙が止まった瞬間、死ぬのが怖くなくなった。
で、自分の手首切った。痛みなんて感じなかった。
だんだん、死ぬことより、生きることの方が怖くなって。
学校にも行きたくなかった。でも、頑張った。エライっしょ?(笑)」
「おぅ」
「けど、いきなり朝会で、生徒指導が〈痴漢が出た〉だの
〈この中に被害に遭った人がいる〉だの言い出すわ、
担任は学活で〈そんな時はとにかく大声で叫べ〉って繰り返すわ…
叫べなかったよ…後ろから口塞がれて、ナイフ突き付けられて、
ドラマみたいだけど、〈動くな、静かにしろ、
逆らったら殺すぞ〉って言われんだよ? 叫べないよ…」
「うん…」
英治は、コイツを責めたりしなかった。
励ますでもなく、慰めるでもなく、
ただ、コイツの口調が穏やかになるまで、ずっと話を聞いてくれた。
コイツの目には、涙が溢れていた。
「あの日、オマエとしゃべった時ね、
死んじゃったら、こいつともしゃべれなくなっちゃうんだって思って、
それからずっと、ずっとオマエが支えだった」
そう、何より言いたかったことはそれだった。
何も知らない人間からしてみれば、当時のコイツは、
さぞかし不可解な点だらけであっただろう。
でも、コイツは、英治さえ解っていてくれれば、それで良かった。
「ケーベツしたでしょ?」
「そんなことないよ」
「ホントのこと言っていいよマジで」
「いや」
「こんなヤツ関わり持ちたくないっしょ?」
「関係ないじゃん」
「…話とか、できる?」
「あぁ」
「命賭ける?」
「おぅ」
「オマエおかしいよ!」
「フツーだよ!」
話して良かったと思った。ありったけの勇気を使った甲斐があったと。
信じられないくらい、嬉しかった。信じられないくらい……
コイツの魂の半分は、まだ英治への想いが支えているようなものだった。
「バ〜カ」と叫ばれたきり、ずっと聴けずにいた声が、
無性に恋しくなったコイツは、再び冷たくされ、
頭のてっぺんでベートーヴェンが暴れることも覚悟の上で、英治の家に電話をした。
恐る恐る話すコイツとは対照的に、のっけから淡々とした口調だった英治は、
一連の騒動についても、「俺が悪いんだよ」と、当たり前のごとく言い切った。
百合子に対する未練のなさは、呆れたくなるほどだった。
コイツは自分の心拍数が上がっていることに気付きながらも、
それは恋愛感情なんかの仕業ではないと思い込むのに必死だった。
「オマエ、卒業式、第2ボタンちょうだいよ」
「あぁ、べつにいいよ」
電話を切る頃には、すっかり仲良しだった頃の調子に戻っている二人がいた。
英治は相変わらず、どこか取っ付きにくさを感じさせる面の多い存在だったものの、
コイツのことは、「しゃべってて飽きない」と言ってくれた。
それからコイツは、度々英治と電話で話すようになった。
<私の過去を知ったとしても、アイツは変わらずにいてくれるんだろうか…>
次第に、そんな不安が胸に去来するようになった。
軽蔑されると思った。そしてまた遠のいてしまうんじゃないかと。
でも、話さなきゃいけないことのような気がした。
英治がいたから生きて来れたのだと伝えたかった。
中3の6月。コイツはありったけの勇気を使い、英治にその話を切り出した。
「私さぁ…中1ん時、自殺未遂した」
「それ、他に誰か知ってる?」
「うん、由樹が知ってるけど……ケーベツした?」
「いや。なんでそんなことしたの?」
「あぁ…それが…私、殺されかけたんだわ、首絞められて」
「ウソ…」
「嘘だと思うんなら、それでいいよ」
「誰に…」
「全然知らない人。中1ん時の、10月1日。
次の日は学校休んだはず。警察行ってて」
「あぁ…」
「怖くてたまんなかった。ホントに死ぬって思って。
見ず知らずの男に、ナイフまで突き付けられて……」
「んでソイツどうなったの?」
「最近んなって捕まったらしい」
コイツはその時初めて、本当に憎むべき相手は、“ソイツ”なのだと思えた。
“ソイツ”への怒りを露にしてくれたのは、英治だけだった。
「あん時、何とか家帰って、涙が止まった瞬間、死ぬのが怖くなくなった。
で、自分の手首切った。痛みなんて感じなかった。
だんだん、死ぬことより、生きることの方が怖くなって。
学校にも行きたくなかった。でも、頑張った。エライっしょ?(笑)」
「おぅ」
「けど、いきなり朝会で、生徒指導が〈痴漢が出た〉だの
〈この中に被害に遭った人がいる〉だの言い出すわ、
担任は学活で〈そんな時はとにかく大声で叫べ〉って繰り返すわ…
叫べなかったよ…後ろから口塞がれて、ナイフ突き付けられて、
ドラマみたいだけど、〈動くな、静かにしろ、
逆らったら殺すぞ〉って言われんだよ? 叫べないよ…」
「うん…」
英治は、コイツを責めたりしなかった。
励ますでもなく、慰めるでもなく、
ただ、コイツの口調が穏やかになるまで、ずっと話を聞いてくれた。
コイツの目には、涙が溢れていた。
「あの日、オマエとしゃべった時ね、
死んじゃったら、こいつともしゃべれなくなっちゃうんだって思って、
それからずっと、ずっとオマエが支えだった」
そう、何より言いたかったことはそれだった。
何も知らない人間からしてみれば、当時のコイツは、
さぞかし不可解な点だらけであっただろう。
でも、コイツは、英治さえ解っていてくれれば、それで良かった。
「ケーベツしたでしょ?」
「そんなことないよ」
「ホントのこと言っていいよマジで」
「いや」
「こんなヤツ関わり持ちたくないっしょ?」
「関係ないじゃん」
「…話とか、できる?」
「あぁ」
「命賭ける?」
「おぅ」
「オマエおかしいよ!」
「フツーだよ!」
話して良かったと思った。ありったけの勇気を使った甲斐があったと。
信じられないくらい、嬉しかった。信じられないくらい……
posted by コイツ at 00:00| U-16【回顧録】2002年12月〜2003年06月に連載。
2003年03月21日
発狂
一度ねじってしまった針金を、キレイに元通りにするのは困難だ。
「私やっぱ、あのまま殺された方が良かったかもしれない。
じゃなきゃ、自殺するべきだった」
「何言ってんの」
「死んじゃえば、もうそれ以上、悲しむことも悔やむこともなかったわけだし…」
「や、なんかあるよ」
「イイこと?」
「うん」
「保証できる?」
「うん」
「ただのカンなんでしょ?」
「いや、それが当たるんだな」
「…ホントにケーベツしてないの?」
「してないよ。1回言えば分かるじゃん」
「だって、人間不信なんだもん」
「……」
「信じたいけどさ。オマエだけは」
「おぅ」
「…私、生きてる価値あると思う?」
「あるんじゃない?」
「ホントにイイことあんのかなぁ」
「おぅ」
夢を見ているような気分だった。
いつまた突き落とされてしまうのか、そればかりを考えるようになり、
弱音を吐きまくっては、「迷惑じゃない?」「もうイヤんなったでしょ」
などと繰り返す日々が始まった。
それでも英治は、コイツの話を聞き続けてくれた。
修学旅行中も、コイツは持ち前の愚かさを発揮した。
初日の夜、消灯時間を過ぎると、同室の女の子達が、
待ってましたとばかりに、ヒソヒソ話を始めた。
「みんな、好きな人いる?」
「いるよ♪」
「だれだれ?」
「だ〜れだ♪」
中3とは言え、周囲はまだ、そんな話題で盛り上がれるような子ばかりだった。
好きな相手とキスやSEXをしたことについて自慢げに語られたりするよりは、
遥かにマシだった。
ある子の好きな人は、当時コイツと仲の良かった男子だった。
小学校時代、泣かしてしまったことのある晴彦(仮名)である。
コイツは晴彦から、付き合いたいと思っている相手として、
その子とは別の子の名を聞かされていたため、
「向こうも好きだよ絶対!」といった具合に、
応援ムード一色になりかけていた所へ、
「私はススめられない」と、口を出さずにはいられなかった。
無論、その子はその理由を問い詰めてきた。
「何となく」などと言って取り繕おうとしたものの、
「私のこと、何か言ってた?」「聞かなかったことにするから!」と、
今にも泣きだしそうな声で繰り返されるうち、
かつての自分を思い出し、事実を話さざるを得なくなった。
翌日の夜、廊下で晴彦に呼び止められた。
「オマエ言ったろ」
「え?」
「アイツがオマエから聞いたっつってんだよ」
「…あぁ」
コイツは、あの子と晴彦がどんな関係にあったのか、そこで初めて察しが付いた。
晴彦はすでに、あの子から想いを告げられ、あの子に対し、
自分も同じ気持ちでいるかのように偽っていたのだ。他に好きな子などいないと。
胸くそ悪さを引きずったまま部屋にいると、
「ちょっと聞いてよー!」と、他クラスの女子がズカズカと上がり込んできた。
陰口大会の始まりだ。
槍玉に挙がっていたのは、かつての仲間の一人・智絵(仮名)だった。
「そんなにムカつくんなら、面と向かって言やぁいいじゃん」
そこにいた全員が、呆気にとられたような顔でコイツを見た。
「言えないんだったら、私が言いに行ってあげるよ」
誰の目にも不機嫌と判るような態度で部屋を出たコイツは、
智絵のいる部屋へ向かい、智絵を呼び出し、言われていた事柄の大半を伝えた。
言っていた当人達は、その様子を少し離れた所から見ていた。
「何やってんだよ、やめろよ」
智絵に想いを寄せる男子が止めに入った瞬間、頭の中で何かが切れる音がした。
「てめぇには関係ねぇんだよ!!」
よほど迫力があったのか、そいつはあっさりとその場を去った。
智絵の瞳は、涙ぐんでいた。体中から熱が込み上げてきたコイツは、
両手で智絵の首を掴み、壁に押し付けた。
「死ね…」
本気で殺してやろうと思った。そのまま殺せる勢いだった。
何の恨みがあるわけでもない、智絵を。
ハッとして辺りを見回すと、見守っていたはずの子達は姿を消し、
智絵のクラスメイト数人が、コイツ一人に冷ややかな視線を向けていた。
呼吸を整えながら部屋に戻ると、ドアの付近で、晴彦とあの子が口論していた。
あの子は全てコイツから聞いたと、晴彦はコイツの言ったことは全てデマだと、
何度も何度も叫んでいた。
コイツは目の前に広がったマーブル模様を振り払うように、
洗面所へ閉じこもり、その壁を力いっぱい殴りつけた。
そこからは、腕が勝手に動いてしまうかのようだった。
何十発目を越えた時だったのか、「やめなよ!」「どうしたの!?」
ものすごく遠くから聴こえていた気がした声の主達が、
すぐ隣にいることに気付いた。
壁に血液が付着していることに気付こうと、
由樹が呼吸困難に陥ってることに気付こうと、
コイツはその腕を止めることができなかった。
駆け付けた教師達に両脇を抱えられ、別室へ連れて行かれた後も、
コイツは刃物をよこせと暴れ、自分の体中を引っ掻いた。
みんな敵に見えた。英治以外は、みんな。
「私やっぱ、あのまま殺された方が良かったかもしれない。
じゃなきゃ、自殺するべきだった」
「何言ってんの」
「死んじゃえば、もうそれ以上、悲しむことも悔やむこともなかったわけだし…」
「や、なんかあるよ」
「イイこと?」
「うん」
「保証できる?」
「うん」
「ただのカンなんでしょ?」
「いや、それが当たるんだな」
「…ホントにケーベツしてないの?」
「してないよ。1回言えば分かるじゃん」
「だって、人間不信なんだもん」
「……」
「信じたいけどさ。オマエだけは」
「おぅ」
「…私、生きてる価値あると思う?」
「あるんじゃない?」
「ホントにイイことあんのかなぁ」
「おぅ」
夢を見ているような気分だった。
いつまた突き落とされてしまうのか、そればかりを考えるようになり、
弱音を吐きまくっては、「迷惑じゃない?」「もうイヤんなったでしょ」
などと繰り返す日々が始まった。
それでも英治は、コイツの話を聞き続けてくれた。
修学旅行中も、コイツは持ち前の愚かさを発揮した。
初日の夜、消灯時間を過ぎると、同室の女の子達が、
待ってましたとばかりに、ヒソヒソ話を始めた。
「みんな、好きな人いる?」
「いるよ♪」
「だれだれ?」
「だ〜れだ♪」
中3とは言え、周囲はまだ、そんな話題で盛り上がれるような子ばかりだった。
好きな相手とキスやSEXをしたことについて自慢げに語られたりするよりは、
遥かにマシだった。
ある子の好きな人は、当時コイツと仲の良かった男子だった。
小学校時代、泣かしてしまったことのある晴彦(仮名)である。
コイツは晴彦から、付き合いたいと思っている相手として、
その子とは別の子の名を聞かされていたため、
「向こうも好きだよ絶対!」といった具合に、
応援ムード一色になりかけていた所へ、
「私はススめられない」と、口を出さずにはいられなかった。
無論、その子はその理由を問い詰めてきた。
「何となく」などと言って取り繕おうとしたものの、
「私のこと、何か言ってた?」「聞かなかったことにするから!」と、
今にも泣きだしそうな声で繰り返されるうち、
かつての自分を思い出し、事実を話さざるを得なくなった。
翌日の夜、廊下で晴彦に呼び止められた。
「オマエ言ったろ」
「え?」
「アイツがオマエから聞いたっつってんだよ」
「…あぁ」
コイツは、あの子と晴彦がどんな関係にあったのか、そこで初めて察しが付いた。
晴彦はすでに、あの子から想いを告げられ、あの子に対し、
自分も同じ気持ちでいるかのように偽っていたのだ。他に好きな子などいないと。
胸くそ悪さを引きずったまま部屋にいると、
「ちょっと聞いてよー!」と、他クラスの女子がズカズカと上がり込んできた。
陰口大会の始まりだ。
槍玉に挙がっていたのは、かつての仲間の一人・智絵(仮名)だった。
「そんなにムカつくんなら、面と向かって言やぁいいじゃん」
そこにいた全員が、呆気にとられたような顔でコイツを見た。
「言えないんだったら、私が言いに行ってあげるよ」
誰の目にも不機嫌と判るような態度で部屋を出たコイツは、
智絵のいる部屋へ向かい、智絵を呼び出し、言われていた事柄の大半を伝えた。
言っていた当人達は、その様子を少し離れた所から見ていた。
「何やってんだよ、やめろよ」
智絵に想いを寄せる男子が止めに入った瞬間、頭の中で何かが切れる音がした。
「てめぇには関係ねぇんだよ!!」
よほど迫力があったのか、そいつはあっさりとその場を去った。
智絵の瞳は、涙ぐんでいた。体中から熱が込み上げてきたコイツは、
両手で智絵の首を掴み、壁に押し付けた。
「死ね…」
本気で殺してやろうと思った。そのまま殺せる勢いだった。
何の恨みがあるわけでもない、智絵を。
ハッとして辺りを見回すと、見守っていたはずの子達は姿を消し、
智絵のクラスメイト数人が、コイツ一人に冷ややかな視線を向けていた。
呼吸を整えながら部屋に戻ると、ドアの付近で、晴彦とあの子が口論していた。
あの子は全てコイツから聞いたと、晴彦はコイツの言ったことは全てデマだと、
何度も何度も叫んでいた。
コイツは目の前に広がったマーブル模様を振り払うように、
洗面所へ閉じこもり、その壁を力いっぱい殴りつけた。
そこからは、腕が勝手に動いてしまうかのようだった。
何十発目を越えた時だったのか、「やめなよ!」「どうしたの!?」
ものすごく遠くから聴こえていた気がした声の主達が、
すぐ隣にいることに気付いた。
壁に血液が付着していることに気付こうと、
由樹が呼吸困難に陥ってることに気付こうと、
コイツはその腕を止めることができなかった。
駆け付けた教師達に両脇を抱えられ、別室へ連れて行かれた後も、
コイツは刃物をよこせと暴れ、自分の体中を引っ掻いた。
みんな敵に見えた。英治以外は、みんな。
posted by コイツ at 00:00| U-16【回顧録】2002年12月〜2003年06月に連載。
2003年04月09日
命綱
息を止め苦しくなろうが、身を切り血を眺めようが、
生きてるなんて感じなかった。生きれているだなんて。
コイツが取り乱していた頃、英治は何をしていたかと言うと、
みんなより一足早く、修学旅行を切り上げてしまっていた。
なぜなら、同室のイカつい男子と空手ごっこをし、左手を骨折したからである。
心配でしょうがなかったコイツは、帰ってすぐに電話をした。
「大丈夫??」
「あぁ」
「なんか病院でイテーッ!って叫んだらしいじゃん」
「だって痛かったんだもん」
「偶然だけど、私も手ぇやっちったよ」
「なんで?」
「旅館の壁殴りまくって」
「なんで?」
「や…」
上手く説明できなかった。自分でもよく解らなかった。
修学旅行以来、コイツは毎日のように、自らの体を痛めつけるようになった。
壁を殴るのは習慣の一つと化し、
授業中は、コンパスでその傷口を拡げることに専念した。
常用しだした頭痛薬や下剤の量も、増えて行く一方だった。
「レイプでもされたの?」
そう訊いてきたのは、中1の時のクラスメイトであり、
中2・中3と、同じ文化祭委員を務めた女の子・博美(仮名)だった。
コイツは笑ってごまかした。
どんなにムシャクシャしている時でも、博美の前では、笑うことができた。
中学時代の楽しかった日々を思い出すと、
そこには必ずと言っていいほど、博美の姿がある。
博美とは、アイドルの話なんぞで盛り上がったり、
一緒にダンス同好会なるものを創り、2つ下の後輩も呼び込んで、
放課後や休日に汗を流したりと、
マイナス思考に支配されがちだった自分が嘘みたいに映る場所を築けた。
ただ、そこには、悩みを打ち明けたくなるような雰囲気はなかった。
共に汗を流した後輩達は、コイツが登校して来たのを見つけるなり、
満面の笑みを浮かべ、かなりの勢いでタックルして来たり、
練習用に作ったコイツの曲を聴き、尊敬の念を示してくれたりした。
愛おしい存在だった。
でも、その子達が、1つ下の後輩に、
「あの先輩はヤバいから関わらない方がいい」
などと忠告されたと聞いた時は、何も言えなかった。
当時のコイツは、クラスメイトに挨拶されても、
視線を合わすことすらしなかったり、
痛みを分け合えた唯一の存在である由樹にさえ、
突き放すような態度でいたりした。
逆に、あれほど敵対心を剥き出しにした存在である百合子とは、
ちょくちょく連絡を取り合うような仲になっていた。
コイツには、悪評がお似合いだった。
そんな中、由樹がくれた手紙には、コイツが由樹をどう思っていようと、
由樹にとってコイツは最も大切な友であることに変わりはない、
というようなことが記されていた。
由樹はコイツの弱さを優しさと呼び、ワガママぶりを純粋さと表した。
そんな由樹こそが、優しくて純粋な人間に見えた。
英治の左手が完治し、大喜びしたコイツの右手は、まだ血が滲んでいた。
ある雨の日、その件で担任に呼び出しを食らい、帰りの遅くなったコイツは、
学校の近くの公衆電話から、英治の家に電話をかけた。
「私さぁ、これ以上、自分のこと責める必要ないと思う?」
「うん」
「ホントに?」
「うん」
英治は、その質問を待っていたかのようだった。
泣いたり怒ったりしてやめさせようとした人が多かった中、
英治は、そう思いつつも、その気持ちを押し付けることはせず、
コイツ自身がやめる気になる日が来ることを、信じていてくれた。
「もうやめるわ」
「うん」
「約束ね」
「うん」
「また責めたくなったら、オマエのこと思い出していい?」
「おぅ」
1学期が終わりを迎える頃、コイツの拳に巻かれた包帯は、
白さを保てるようになった。
「こないだ初めて、自分の手がカワイソウだって思えた。
それまでずっと、壁に申し訳ないとか言ってたけど」
「うん」
「今頃気付くなんてバカかも」
「うん」
「何回もオマエの声が頭よぎったよ、ありがとう」
「おぅ」
夏休み中は、一度も連絡を取らなかった。
英治に頼らなくても大丈夫な自分になることが、最大限の恩返しだと思った。
そしてまた、ガンガン曲を作った。
自らの可能性に興味が湧き、デモテープオーディションとやらにも初挑戦した。
結果は不合格だったものの、作詞・作曲の才能は感じる、
唄はトレーニングすべき、とのコメントをもらえた。
生きる気力に満ち溢れたコイツには、
新学期早々に待ち受けている出来事など、想像もできなかった。
生きてるなんて感じなかった。生きれているだなんて。
コイツが取り乱していた頃、英治は何をしていたかと言うと、
みんなより一足早く、修学旅行を切り上げてしまっていた。
なぜなら、同室のイカつい男子と空手ごっこをし、左手を骨折したからである。
心配でしょうがなかったコイツは、帰ってすぐに電話をした。
「大丈夫??」
「あぁ」
「なんか病院でイテーッ!って叫んだらしいじゃん」
「だって痛かったんだもん」
「偶然だけど、私も手ぇやっちったよ」
「なんで?」
「旅館の壁殴りまくって」
「なんで?」
「や…」
上手く説明できなかった。自分でもよく解らなかった。
修学旅行以来、コイツは毎日のように、自らの体を痛めつけるようになった。
壁を殴るのは習慣の一つと化し、
授業中は、コンパスでその傷口を拡げることに専念した。
常用しだした頭痛薬や下剤の量も、増えて行く一方だった。
「レイプでもされたの?」
そう訊いてきたのは、中1の時のクラスメイトであり、
中2・中3と、同じ文化祭委員を務めた女の子・博美(仮名)だった。
コイツは笑ってごまかした。
どんなにムシャクシャしている時でも、博美の前では、笑うことができた。
中学時代の楽しかった日々を思い出すと、
そこには必ずと言っていいほど、博美の姿がある。
博美とは、アイドルの話なんぞで盛り上がったり、
一緒にダンス同好会なるものを創り、2つ下の後輩も呼び込んで、
放課後や休日に汗を流したりと、
マイナス思考に支配されがちだった自分が嘘みたいに映る場所を築けた。
ただ、そこには、悩みを打ち明けたくなるような雰囲気はなかった。
共に汗を流した後輩達は、コイツが登校して来たのを見つけるなり、
満面の笑みを浮かべ、かなりの勢いでタックルして来たり、
練習用に作ったコイツの曲を聴き、尊敬の念を示してくれたりした。
愛おしい存在だった。
でも、その子達が、1つ下の後輩に、
「あの先輩はヤバいから関わらない方がいい」
などと忠告されたと聞いた時は、何も言えなかった。
当時のコイツは、クラスメイトに挨拶されても、
視線を合わすことすらしなかったり、
痛みを分け合えた唯一の存在である由樹にさえ、
突き放すような態度でいたりした。
逆に、あれほど敵対心を剥き出しにした存在である百合子とは、
ちょくちょく連絡を取り合うような仲になっていた。
コイツには、悪評がお似合いだった。
そんな中、由樹がくれた手紙には、コイツが由樹をどう思っていようと、
由樹にとってコイツは最も大切な友であることに変わりはない、
というようなことが記されていた。
由樹はコイツの弱さを優しさと呼び、ワガママぶりを純粋さと表した。
そんな由樹こそが、優しくて純粋な人間に見えた。
英治の左手が完治し、大喜びしたコイツの右手は、まだ血が滲んでいた。
ある雨の日、その件で担任に呼び出しを食らい、帰りの遅くなったコイツは、
学校の近くの公衆電話から、英治の家に電話をかけた。
「私さぁ、これ以上、自分のこと責める必要ないと思う?」
「うん」
「ホントに?」
「うん」
英治は、その質問を待っていたかのようだった。
泣いたり怒ったりしてやめさせようとした人が多かった中、
英治は、そう思いつつも、その気持ちを押し付けることはせず、
コイツ自身がやめる気になる日が来ることを、信じていてくれた。
「もうやめるわ」
「うん」
「約束ね」
「うん」
「また責めたくなったら、オマエのこと思い出していい?」
「おぅ」
1学期が終わりを迎える頃、コイツの拳に巻かれた包帯は、
白さを保てるようになった。
「こないだ初めて、自分の手がカワイソウだって思えた。
それまでずっと、壁に申し訳ないとか言ってたけど」
「うん」
「今頃気付くなんてバカかも」
「うん」
「何回もオマエの声が頭よぎったよ、ありがとう」
「おぅ」
夏休み中は、一度も連絡を取らなかった。
英治に頼らなくても大丈夫な自分になることが、最大限の恩返しだと思った。
そしてまた、ガンガン曲を作った。
自らの可能性に興味が湧き、デモテープオーディションとやらにも初挑戦した。
結果は不合格だったものの、作詞・作曲の才能は感じる、
唄はトレーニングすべき、とのコメントをもらえた。
生きる気力に満ち溢れたコイツには、
新学期早々に待ち受けている出来事など、想像もできなかった。
posted by コイツ at 00:00| U-16【回顧録】2002年12月〜2003年06月に連載。
2003年04月18日
重複
行きたい高校は決まっていた。
いつ勉強していたのか全く思い出せないのだが、担任との面談では、
そこなら1学期の成績を保てれば余裕で入れると言われた。
しかし、コイツは2学期に入ってすぐ、1週間近く学校を休み、
以降、ほとんど授業に出なくなってしまった。
夏休みが明けて、ほんの数日目の出来事だった。
同好会は文化祭のステージに立てることになり、
コイツは博美達とミーティングを済ませた後、一人で下校した。
まだ空は明るかった。
10メートルくらい前に、同じ中学の制服を着た男子が歩いていて、
何やらチラチラと後ろを振り向きながら、その速度を緩めだしたもんだから、
コイツもあえて、かなりのスローペースで歩くことにした。
しばらくすると姿が見えなくなったため、ホッとしていつもの歩調に戻したのだが、
ソイツは途中にある店から出てきて、
今度はコイツの2メートルくらい後ろを歩きだした。
コイツが早足になると、ソイツも早足になり、一向に広がらぬ距離。
どう考えても怪しい。日が暮れる前だとは言え、人通りは少なく、
ソイツの荒い息づかいが聴こえたコイツは、
危機感を覚え、振り返ることもできないまま、駆け足になった。
その途端、ソイツは走りだし、後ろから思いきり抱きついてきた。
骨が折れるかと思うくらいの力で、身を捩ることすらできない。
ガードレールとの間に挟まれ、足も上げられず、
あの時の恐怖が脳裏をびゅんびゅん横切った。
<まただよ…>そう諦めかけた時、ソイツの手が、コイツの胸の上にあり、
口を塞いでいるわけでもなければ、ナイフを持っているわけでもないことに気付いた。
そして、英治の名が過ったと同時に、「ヤメロヨぉるぁぁ!!」と、
自分でも驚くくらいドスの利いた声で叫ぶことができた。
ソイツは慌てて手を放し、怯えきった表情で後退りした。
「てんめぇ…そこで謝れ」
「すみません…」
見覚えのない奴だった。
「何年だよ?」
「…1年です」
目を潤ませながらも、オノレの股間ばかり気にしてやがるソイツ。
「変態!」この上なく冷たく言い放って歩きだすと、ソイツもすぐに歩きだした。
「付いてくんじゃねぇよボケ!そこで突っ立ってろ!一歩も動くんじゃねぇぞ!」
「ハイ…」
家がバレないよう、なるべく早くソイツの視野から外れられる道を選んで帰った。
<なんで…?>その場では、本当に強気でいられたのに、
家に着き、ドアを閉めた瞬間、涙が溢れ、声をあげて泣いた。
ショックで外へ出られなくなり、
1ヶ月以上無縁でいられた自傷行為も、衝動のままに再開した。
無論、家族には、事実を話すことなどできなかった。
家族を苦しめることで苦しむのは、もうウンザリだった。
だが、コイツの心は、救いを求め、痛み続けた。
近所の犬がじゃれてきて、
ボクの両腕が血まみれになった。
あの時の涙の匂いがした。
ボクを抱き締める力はいつも、私欲に満ちてる。
決して、ボクの眼を見ようとはしない。
いつ勉強していたのか全く思い出せないのだが、担任との面談では、
そこなら1学期の成績を保てれば余裕で入れると言われた。
しかし、コイツは2学期に入ってすぐ、1週間近く学校を休み、
以降、ほとんど授業に出なくなってしまった。
夏休みが明けて、ほんの数日目の出来事だった。
同好会は文化祭のステージに立てることになり、
コイツは博美達とミーティングを済ませた後、一人で下校した。
まだ空は明るかった。
10メートルくらい前に、同じ中学の制服を着た男子が歩いていて、
何やらチラチラと後ろを振り向きながら、その速度を緩めだしたもんだから、
コイツもあえて、かなりのスローペースで歩くことにした。
しばらくすると姿が見えなくなったため、ホッとしていつもの歩調に戻したのだが、
ソイツは途中にある店から出てきて、
今度はコイツの2メートルくらい後ろを歩きだした。
コイツが早足になると、ソイツも早足になり、一向に広がらぬ距離。
どう考えても怪しい。日が暮れる前だとは言え、人通りは少なく、
ソイツの荒い息づかいが聴こえたコイツは、
危機感を覚え、振り返ることもできないまま、駆け足になった。
その途端、ソイツは走りだし、後ろから思いきり抱きついてきた。
骨が折れるかと思うくらいの力で、身を捩ることすらできない。
ガードレールとの間に挟まれ、足も上げられず、
あの時の恐怖が脳裏をびゅんびゅん横切った。
<まただよ…>そう諦めかけた時、ソイツの手が、コイツの胸の上にあり、
口を塞いでいるわけでもなければ、ナイフを持っているわけでもないことに気付いた。
そして、英治の名が過ったと同時に、「ヤメロヨぉるぁぁ!!」と、
自分でも驚くくらいドスの利いた声で叫ぶことができた。
ソイツは慌てて手を放し、怯えきった表情で後退りした。
「てんめぇ…そこで謝れ」
「すみません…」
見覚えのない奴だった。
「何年だよ?」
「…1年です」
目を潤ませながらも、オノレの股間ばかり気にしてやがるソイツ。
「変態!」この上なく冷たく言い放って歩きだすと、ソイツもすぐに歩きだした。
「付いてくんじゃねぇよボケ!そこで突っ立ってろ!一歩も動くんじゃねぇぞ!」
「ハイ…」
家がバレないよう、なるべく早くソイツの視野から外れられる道を選んで帰った。
<なんで…?>その場では、本当に強気でいられたのに、
家に着き、ドアを閉めた瞬間、涙が溢れ、声をあげて泣いた。
ショックで外へ出られなくなり、
1ヶ月以上無縁でいられた自傷行為も、衝動のままに再開した。
無論、家族には、事実を話すことなどできなかった。
家族を苦しめることで苦しむのは、もうウンザリだった。
だが、コイツの心は、救いを求め、痛み続けた。
近所の犬がじゃれてきて、
ボクの両腕が血まみれになった。
あの時の涙の匂いがした。
ボクを抱き締める力はいつも、私欲に満ちてる。
決して、ボクの眼を見ようとはしない。
posted by コイツ at 00:00| U-16【回顧録】2002年12月〜2003年06月に連載。
2003年04月21日
善と悪 〜前編〜
この世に醜いものがなかったら、何も美しく映らなかったに違いない。
「それ自慢?」「カワイソ〜!(コイツに怒鳴られた相手の方が)」
「スカートん中に手ぇ入れられたりしちゃったの?」……
中1の時の一件を知らぬ友達のほとんどが、
余計に悲しくなるようなことしか言ってくれず、コイツは、
もう頼らないと心に誓ったはずの英治に、電話をかけずにはいられなかった。
「なんていう奴?」
「わかんない、1年ってことしか聞いてない」
「制服着てたんなら嘘かもよ?」
「あぁ…顔見れば分かる、背ぇ高めで…」
「どんくらい?」
「どんくらいだろ…170はあると思う。で、小太りで、天パ入ってて…」
「あぁ」
コイツが笑いながら話していても、英治の口調は、終始、真剣なままだった。
誰なのか突き止めることからだと思ったコイツは、
中学に入学して以来使わずにいた眼鏡をかけ、普段より地味な格好で登校した。
ソイツを捜す必要はなかった。ソイツは、コイツの行く先々に現われやがったのだ。
しかも、ソイツの着ていたジャージの色は、2年の物だった。
あれだけキツく言えば、反省しただろうと思いきや、ソイツは、
コイツに自分の存在を意識されだしたことを、喜んでいるかのようだった。
コイツは、仲の良かった女性教師に相談し、
2年のクラス写真を片っ端から調べ、ソイツの名前をメモった。
女性教師の話によると、ソイツは周囲に嫌われていながら、その自覚が乏しく、
そういう行動に出ても不思議じゃない存在だとのことだった。
体育祭の日も、コイツはソイツに付きまとわれ、競技どころではなかった。
傍にいた由樹が、泣いていたコイツの代わりに、
ソイツの名前とクラスが書かれたメモを、英治に渡してくれた。
その後英治は、コイツが座っていたベンチに座るなどして、
ソイツの動きを見張ってくれているようだった。
「メモ読んだ?」
「うん」
「ソイツのこと知ってる?」
「うん」
「すげぇ気持ち悪いよね。最近、夜眠れないし、食欲ないし、授業も出れてない」
「あぁ」
「でも、なんかこういうのも、自分のせいに思えてくる」
「……」
「アイツが悪いんだよねぇ」
「うん」
「生徒指導に言わなきゃ、
アイツのこと呼び出してどうこうってことはできないらしいんだ」
「言っちまえ」
「んー…もうちょい様子見て…」
「いくら待ってもおんなじじゃん」
「あぁ…だって、それで違う形で後引きずるってことないかな」
「わかんない」
「そうなんないように、力貸してくれる?」
「え、言っていいの?」
「え、言ってくれんの? 言ってほしいよ」
「あ、そう? 会ったら言っとくよ」
それは二人にとって、当たり前のことではなかった。当たり前のことなんかでは。
「それ自慢?」「カワイソ〜!(コイツに怒鳴られた相手の方が)」
「スカートん中に手ぇ入れられたりしちゃったの?」……
中1の時の一件を知らぬ友達のほとんどが、
余計に悲しくなるようなことしか言ってくれず、コイツは、
もう頼らないと心に誓ったはずの英治に、電話をかけずにはいられなかった。
「なんていう奴?」
「わかんない、1年ってことしか聞いてない」
「制服着てたんなら嘘かもよ?」
「あぁ…顔見れば分かる、背ぇ高めで…」
「どんくらい?」
「どんくらいだろ…170はあると思う。で、小太りで、天パ入ってて…」
「あぁ」
コイツが笑いながら話していても、英治の口調は、終始、真剣なままだった。
誰なのか突き止めることからだと思ったコイツは、
中学に入学して以来使わずにいた眼鏡をかけ、普段より地味な格好で登校した。
ソイツを捜す必要はなかった。ソイツは、コイツの行く先々に現われやがったのだ。
しかも、ソイツの着ていたジャージの色は、2年の物だった。
あれだけキツく言えば、反省しただろうと思いきや、ソイツは、
コイツに自分の存在を意識されだしたことを、喜んでいるかのようだった。
コイツは、仲の良かった女性教師に相談し、
2年のクラス写真を片っ端から調べ、ソイツの名前をメモった。
女性教師の話によると、ソイツは周囲に嫌われていながら、その自覚が乏しく、
そういう行動に出ても不思議じゃない存在だとのことだった。
体育祭の日も、コイツはソイツに付きまとわれ、競技どころではなかった。
傍にいた由樹が、泣いていたコイツの代わりに、
ソイツの名前とクラスが書かれたメモを、英治に渡してくれた。
その後英治は、コイツが座っていたベンチに座るなどして、
ソイツの動きを見張ってくれているようだった。
「メモ読んだ?」
「うん」
「ソイツのこと知ってる?」
「うん」
「すげぇ気持ち悪いよね。最近、夜眠れないし、食欲ないし、授業も出れてない」
「あぁ」
「でも、なんかこういうのも、自分のせいに思えてくる」
「……」
「アイツが悪いんだよねぇ」
「うん」
「生徒指導に言わなきゃ、
アイツのこと呼び出してどうこうってことはできないらしいんだ」
「言っちまえ」
「んー…もうちょい様子見て…」
「いくら待ってもおんなじじゃん」
「あぁ…だって、それで違う形で後引きずるってことないかな」
「わかんない」
「そうなんないように、力貸してくれる?」
「え、言っていいの?」
「え、言ってくれんの? 言ってほしいよ」
「あ、そう? 会ったら言っとくよ」
それは二人にとって、当たり前のことではなかった。当たり前のことなんかでは。
posted by コイツ at 00:00| U-16【回顧録】2002年12月〜2003年06月に連載。
2003年04月23日
善と悪 〜後編〜
この世に美しいものがなかったら、何も醜く映らなかったのだろうか。
コイツは、中2の頃に何かと世話になった相談室で、
生徒指導の教師に、自分が学校を休みがちになった経緯を話した。
すると教師は、「俺にも娘がいるし、他人事とは思えない」
「警察に突き出してやりたい」「1発殴るだけじゃ気が済まない」などと息巻き、
アイツに厳重注意することを、あっさりと承諾してくれた。
ところが、数日後、教師の態度は豹変した。
「とりあえず、やったことはすぐに認めたよ」
アイツが認めた事柄を一通り挙げた後、教師はこう続けた。
「で、理由を訊いてみたんだが、どうやら、オマエが好きなタイプだったらしい」
「…で?」
「3年生の方は、もう顔も見たくないって言ってるから、
これからは近づかないようにしろって言ったら、半ベソかいて反省してたよ」
「…で?」
「ここは、アイツを信じてやろうや」
「は?」
「オマエさえ許してやれば、それで済む話だ」
コイツが腑に落ちない表情でいると、教師は更に続けた。
「大体オマエ、何だその格好は。校則違反だろうが。
オマエを代表して言うが、近頃の3年の女子は、露出度が高過ぎるんだよ。
男には、そういうのに興奮しやすい年頃っていうのがあってだな…」
「しょうがないって言うの?」
「まぁ、そういう言い方も、できなくはない」
「……」
「それに、これ以上事を荒立てたいんであれば、
オマエの両親にも報告しなきゃならないぞ?」
「ヤダ…それだけは絶対ヤダ」
「だろ? この時期に欠席が多いだけでも心配だろうに、そんなの聞いたらなぁ…」
「わかったよ…もういいよ…」
コイツは確かに、他の同学年の女子の大半と同じく、夏服は、
薄手のシャツ1枚に、膝上10センチくらいのスカート、というのが主だった。
だが、それがアイツの行為を正当化できる物だとは、とても思いがたかった。
「アイツ、体育祭ん時、私がいたテントの周りウロチョロしてたの知ってた?」
「うん」
「あーいうのとかも全部、私に近づくために意図的にやったって認めたって」
「……」
コイツは英治に、生徒指導への不信感もぶちまけた。
「教師っていう立場だし、何事もこう、
早く解決に持って行きたいって気持ちは、解らないでもないんだけど、
こういう問題まで、両方悪いって片付けていいものなのか、すごい疑問」
「……」
「それに、生徒指導って男じゃん。
やっぱ男にしてみれば、こんなこと大したことじゃないのかなって」
「……」
「オマエ、アイツのこと、サイテーな野郎だと思う?」
「うん」
「あ、あれから会った?」
「会ったよ」
「なんかしゃべった?」
「あんま…ちっとしか言わなかった」
コイツは、英治が腹立たしく感じる相手に向ける視線の威圧感を、よく知っていた。
その視線がアイツに向いたことを想像するだけでも、かなりの爽快感を得られた。
実際アイツは、以降、パタッとコイツを待ち伏せしたりしなくなった。
恋人でもないのに、英治に甘えっきりでいる自分は、ものすごく嫌だった。
コイツが離れて行きさえすれば、英治は、より穏やかな生活ができ、
受験勉強にも専念しやすいだろうと思い、再び連絡を取らない日々が始まった。
その頃にはもう、進学する気など、ゼロに等しかった。
コイツは、中2の頃に何かと世話になった相談室で、
生徒指導の教師に、自分が学校を休みがちになった経緯を話した。
すると教師は、「俺にも娘がいるし、他人事とは思えない」
「警察に突き出してやりたい」「1発殴るだけじゃ気が済まない」などと息巻き、
アイツに厳重注意することを、あっさりと承諾してくれた。
ところが、数日後、教師の態度は豹変した。
「とりあえず、やったことはすぐに認めたよ」
アイツが認めた事柄を一通り挙げた後、教師はこう続けた。
「で、理由を訊いてみたんだが、どうやら、オマエが好きなタイプだったらしい」
「…で?」
「3年生の方は、もう顔も見たくないって言ってるから、
これからは近づかないようにしろって言ったら、半ベソかいて反省してたよ」
「…で?」
「ここは、アイツを信じてやろうや」
「は?」
「オマエさえ許してやれば、それで済む話だ」
コイツが腑に落ちない表情でいると、教師は更に続けた。
「大体オマエ、何だその格好は。校則違反だろうが。
オマエを代表して言うが、近頃の3年の女子は、露出度が高過ぎるんだよ。
男には、そういうのに興奮しやすい年頃っていうのがあってだな…」
「しょうがないって言うの?」
「まぁ、そういう言い方も、できなくはない」
「……」
「それに、これ以上事を荒立てたいんであれば、
オマエの両親にも報告しなきゃならないぞ?」
「ヤダ…それだけは絶対ヤダ」
「だろ? この時期に欠席が多いだけでも心配だろうに、そんなの聞いたらなぁ…」
「わかったよ…もういいよ…」
コイツは確かに、他の同学年の女子の大半と同じく、夏服は、
薄手のシャツ1枚に、膝上10センチくらいのスカート、というのが主だった。
だが、それがアイツの行為を正当化できる物だとは、とても思いがたかった。
「アイツ、体育祭ん時、私がいたテントの周りウロチョロしてたの知ってた?」
「うん」
「あーいうのとかも全部、私に近づくために意図的にやったって認めたって」
「……」
コイツは英治に、生徒指導への不信感もぶちまけた。
「教師っていう立場だし、何事もこう、
早く解決に持って行きたいって気持ちは、解らないでもないんだけど、
こういう問題まで、両方悪いって片付けていいものなのか、すごい疑問」
「……」
「それに、生徒指導って男じゃん。
やっぱ男にしてみれば、こんなこと大したことじゃないのかなって」
「……」
「オマエ、アイツのこと、サイテーな野郎だと思う?」
「うん」
「あ、あれから会った?」
「会ったよ」
「なんかしゃべった?」
「あんま…ちっとしか言わなかった」
コイツは、英治が腹立たしく感じる相手に向ける視線の威圧感を、よく知っていた。
その視線がアイツに向いたことを想像するだけでも、かなりの爽快感を得られた。
実際アイツは、以降、パタッとコイツを待ち伏せしたりしなくなった。
恋人でもないのに、英治に甘えっきりでいる自分は、ものすごく嫌だった。
コイツが離れて行きさえすれば、英治は、より穏やかな生活ができ、
受験勉強にも専念しやすいだろうと思い、再び連絡を取らない日々が始まった。
その頃にはもう、進学する気など、ゼロに等しかった。
posted by コイツ at 00:00| U-16【回顧録】2002年12月〜2003年06月に連載。
2003年05月18日
模範
涙を流す度に、信じたいもののある自分に気付かされた。
「これ以上事を荒立てたいんであれば、オマエの両親にも報告しなきゃならないぞ?」
「ヤダ…それだけは絶対ヤダ」
「だろ? この時期に欠席が多いだけでも心配だろうに、そんなの聞いたらなぁ…」
あの日の会話が、何度も頭の中を過った。
コイツの母親は、コイツが知らないうちに、すでに学校に呼び出されていた。
修学旅行の一件の際、家庭に問題があるんじゃないかということでだ。
姉からその事実を聞かされたコイツは、
自分の部屋に戻った後、枕に顔を押し付けて泣いた。
手に取ったのは、刃物じゃなく、受話器だった。
由樹の声が、耳から心へと、滑らかに届いた。
コイツは、何よりも忘れたい過去を思い出させる存在だった母親に、
いつしか、強い嫌悪感を抱くようになっていた。
自ら死を選んでしまった母親のことさえ憎まずにいようとしていた由樹と話し、
そんな自分が、とても恥ずかしくなった。
昼休みに登校し、一時間は保健室、もう一時間ある場合は、
屋上に繋がる階段の踊り場で過ごす。それだけ。
文化祭終了後は、学校へ足を運んでも、そんな日が大半だった。
成長期だったにも拘らず、栄養補助食以外を口にするのは、週に一回程度。
家族にはダイエットだと言い張っていたが、
本当は、常に吐き気に襲われていたため、何も食べたくなかった。
ほど良い光が射し込む、屋上に繋がる階段の踊り場。
吐き捨てられた、味のなくなったガムみたいに、
座り込んで、天井見上げて、目を閉じてみたら、
瞬間の真っ白な世界が、浸透する安らぎに変わった。
咳き込んで、視界に入った壁の落書き。
あさる必要のないリュックから、ペンを取り出した。
数日後、引き寄せられるように、再びそこへ行くと、
とても暖かな言葉が書き足されていた。
それが誰のものかより、新たな言葉を考えていた。
また数日後、言葉は更に加えられていた。
あの言葉たちを、すべて忘れてしまった今、
それが誰のものだったのか、知りたくてたまらない。
卒業して何年も経った頃、突然、当時の担任から電話が来たことがあった。
コイツが元気でいるか、気になってしょうがなかったようで、
「いまだかつて、オマエほどの問題児には出会っとらんからな」と添えていた。
煙草やシンナーに手を出したり、椅子で窓ガラスを割りまくったりと、
荒れていた生徒なら他にもいたのだが、
当時のコイツの荒れ方は、彼らとは違い、群れないということが基本にあり、
好奇心や反抗心といった、思春期ならではの要素が薄く、
担任も、どうしたらいいのか解らなかったのかもしれない。
当時よく、「オマエその、〈私からしてみれば〉って口癖やめねぇか?」
と注意されたことを憶えている。
コイツはおそらく、人生15年目にして、
何もかも悟りきったかのような態度でいたのだろう。
そんな頃、そんな頃に出会ったのが、
野島伸司脚本による、『未成年』という連続ドラマ(TBS系)だった。
あの作品がコイツに与えた影響力たるや、
どんなアーティストの音楽をも凌ぐんじゃないかと思う。
とにかく、登場人物それぞれの感情に、言葉に、
どうしようもなく共鳴させられ、泣かずにいられる回がなかった。
また、コイツは中2の頃から、野島さんと、プロデューサーである伊藤一尋さんに、
こんなドラマをやってほしい!と、ちょくちょく手紙を出していた。
実際にそれを参考にしてくれたわけではないとしても、
「あの人出してって書いたよね!?」「あの設定まんまじゃない!?」などと、
その手紙の内容を明かしてあった博美達と騒げたくらい、
待ち望んでいたものと合致する点の多い作品でもあった。
観たことがないという人には、是非とも観てもらいたい。
ここまでの話をずっと読んできた人ならば、
あの作品がコイツの胸を打った理由が、ものすごくよく解るはずである。
その主題歌であったカーペンターズの
『青春の輝き〜I NEED TO BE IN LOVE〜』の歌詞は、こう始まっている。
私がやってきたことで 一番難しかったのは 信じ続けること
このクレイジーな世界のどこかに 私を愛してくれる人が きっといると
「これ以上事を荒立てたいんであれば、オマエの両親にも報告しなきゃならないぞ?」
「ヤダ…それだけは絶対ヤダ」
「だろ? この時期に欠席が多いだけでも心配だろうに、そんなの聞いたらなぁ…」
あの日の会話が、何度も頭の中を過った。
コイツの母親は、コイツが知らないうちに、すでに学校に呼び出されていた。
修学旅行の一件の際、家庭に問題があるんじゃないかということでだ。
姉からその事実を聞かされたコイツは、
自分の部屋に戻った後、枕に顔を押し付けて泣いた。
手に取ったのは、刃物じゃなく、受話器だった。
由樹の声が、耳から心へと、滑らかに届いた。
コイツは、何よりも忘れたい過去を思い出させる存在だった母親に、
いつしか、強い嫌悪感を抱くようになっていた。
自ら死を選んでしまった母親のことさえ憎まずにいようとしていた由樹と話し、
そんな自分が、とても恥ずかしくなった。
昼休みに登校し、一時間は保健室、もう一時間ある場合は、
屋上に繋がる階段の踊り場で過ごす。それだけ。
文化祭終了後は、学校へ足を運んでも、そんな日が大半だった。
成長期だったにも拘らず、栄養補助食以外を口にするのは、週に一回程度。
家族にはダイエットだと言い張っていたが、
本当は、常に吐き気に襲われていたため、何も食べたくなかった。
ほど良い光が射し込む、屋上に繋がる階段の踊り場。
吐き捨てられた、味のなくなったガムみたいに、
座り込んで、天井見上げて、目を閉じてみたら、
瞬間の真っ白な世界が、浸透する安らぎに変わった。
咳き込んで、視界に入った壁の落書き。
あさる必要のないリュックから、ペンを取り出した。
数日後、引き寄せられるように、再びそこへ行くと、
とても暖かな言葉が書き足されていた。
それが誰のものかより、新たな言葉を考えていた。
また数日後、言葉は更に加えられていた。
あの言葉たちを、すべて忘れてしまった今、
それが誰のものだったのか、知りたくてたまらない。
卒業して何年も経った頃、突然、当時の担任から電話が来たことがあった。
コイツが元気でいるか、気になってしょうがなかったようで、
「いまだかつて、オマエほどの問題児には出会っとらんからな」と添えていた。
煙草やシンナーに手を出したり、椅子で窓ガラスを割りまくったりと、
荒れていた生徒なら他にもいたのだが、
当時のコイツの荒れ方は、彼らとは違い、群れないということが基本にあり、
好奇心や反抗心といった、思春期ならではの要素が薄く、
担任も、どうしたらいいのか解らなかったのかもしれない。
当時よく、「オマエその、〈私からしてみれば〉って口癖やめねぇか?」
と注意されたことを憶えている。
コイツはおそらく、人生15年目にして、
何もかも悟りきったかのような態度でいたのだろう。
そんな頃、そんな頃に出会ったのが、
野島伸司脚本による、『未成年』という連続ドラマ(TBS系)だった。
あの作品がコイツに与えた影響力たるや、
どんなアーティストの音楽をも凌ぐんじゃないかと思う。
とにかく、登場人物それぞれの感情に、言葉に、
どうしようもなく共鳴させられ、泣かずにいられる回がなかった。
また、コイツは中2の頃から、野島さんと、プロデューサーである伊藤一尋さんに、
こんなドラマをやってほしい!と、ちょくちょく手紙を出していた。
実際にそれを参考にしてくれたわけではないとしても、
「あの人出してって書いたよね!?」「あの設定まんまじゃない!?」などと、
その手紙の内容を明かしてあった博美達と騒げたくらい、
待ち望んでいたものと合致する点の多い作品でもあった。
観たことがないという人には、是非とも観てもらいたい。
ここまでの話をずっと読んできた人ならば、
あの作品がコイツの胸を打った理由が、ものすごくよく解るはずである。
その主題歌であったカーペンターズの
『青春の輝き〜I NEED TO BE IN LOVE〜』の歌詞は、こう始まっている。
私がやってきたことで 一番難しかったのは 信じ続けること
このクレイジーな世界のどこかに 私を愛してくれる人が きっといると
posted by コイツ at 00:00| U-16【回顧録】2002年12月〜2003年06月に連載。
2003年05月28日
側面
受験シーズン真っ只中、コイツは入院していた。
ごく少人数ではあるが、2学期の頃から、「いないと寂しい」
「学校来て」などという電話をよこしてくるようになった友達がいた。
「ツライことあったら、俺んち電話してよ」
そう言ってくれたのは、小学校時代からの友人であり、
英治とも仲の良かった男の子・寿明(仮名)だった。
入院中も、寿明から自宅に電話が来ていると聞いたコイツは、
病院から連絡を取ってみた。
「英治が、〈アイツなんで学校来ないの?〉って言ってたよ。
で、入院してんだってって言ったら、また〈なんで?〉って。
心配してるんじゃない?」
「ウソ…」
そんなのとても信じがたかった。
クラスメイトの女の子達も、英治が、一日に一度はうちのクラスへ来て、
教室内をザッと見回して帰って行くと教えてくれたが、
コイツ自身は、英治に気に掛けてもらってるようなことを言われた例がなく、
疑う方が、ずっとラクだった。
3年の教室は2階にあり、どの教室からも出られるベランダがあった。
退院し、久々に登校した日の放課後、
コイツはそこから、誰もいなくなった自分のクラスの教室を眺めていた。
すると、全開になっていたドアから、英治が顏を覗かせた。
その視線の先には、コイツの席があった。
そして英治は、コイツの姿に気付くことなく去って行った。
コイツはその時、初めて英治の切なげな表情を見た。
<私、全然わかってないかも。オマエのこと、全然…>
同好会は、卒業式の数日前に行われる、
お別れ会のステージにも立てることになった。
コイツは、入院していた際、自分に無断で居場所を聞き出し、
何の予告もなく見舞いに来た博美を、とっさに追い返してしまい、
しばらくして、ものすごく後悔した。
何が何でも、もう一度一緒にステージに立ちたくて、
企画書を用意し、複数の教師に頭を下げ、どうにかそこまで漕ぎ着けた。
その甲斐もあって、メンバーは文化祭の時よりも増え、
残り少ない中学校生活を、存分に楽しむことができた。
そう言えば、同好会の顧問を引き受けてくれたのは、
中1の頃に土下座をさせてしまった、あの女教師だった。
高校へ行かないという決意と、
それを了承してくれた両親のことを書いた手紙を読んで、
ぽろぽろ涙を流してくれた教師もいたし、
コイツの通学用リュックの中に、水鉄砲だけしか入っていなかったのを見て、
呆れながらも微笑んでくれた教師もいた。
イヤな物事があって、首を横に振って、
それでこそ視界に入った宝物が、いくつもあった。
ごく少人数ではあるが、2学期の頃から、「いないと寂しい」
「学校来て」などという電話をよこしてくるようになった友達がいた。
「ツライことあったら、俺んち電話してよ」
そう言ってくれたのは、小学校時代からの友人であり、
英治とも仲の良かった男の子・寿明(仮名)だった。
入院中も、寿明から自宅に電話が来ていると聞いたコイツは、
病院から連絡を取ってみた。
「英治が、〈アイツなんで学校来ないの?〉って言ってたよ。
で、入院してんだってって言ったら、また〈なんで?〉って。
心配してるんじゃない?」
「ウソ…」
そんなのとても信じがたかった。
クラスメイトの女の子達も、英治が、一日に一度はうちのクラスへ来て、
教室内をザッと見回して帰って行くと教えてくれたが、
コイツ自身は、英治に気に掛けてもらってるようなことを言われた例がなく、
疑う方が、ずっとラクだった。
3年の教室は2階にあり、どの教室からも出られるベランダがあった。
退院し、久々に登校した日の放課後、
コイツはそこから、誰もいなくなった自分のクラスの教室を眺めていた。
すると、全開になっていたドアから、英治が顏を覗かせた。
その視線の先には、コイツの席があった。
そして英治は、コイツの姿に気付くことなく去って行った。
コイツはその時、初めて英治の切なげな表情を見た。
<私、全然わかってないかも。オマエのこと、全然…>
同好会は、卒業式の数日前に行われる、
お別れ会のステージにも立てることになった。
コイツは、入院していた際、自分に無断で居場所を聞き出し、
何の予告もなく見舞いに来た博美を、とっさに追い返してしまい、
しばらくして、ものすごく後悔した。
何が何でも、もう一度一緒にステージに立ちたくて、
企画書を用意し、複数の教師に頭を下げ、どうにかそこまで漕ぎ着けた。
その甲斐もあって、メンバーは文化祭の時よりも増え、
残り少ない中学校生活を、存分に楽しむことができた。
そう言えば、同好会の顧問を引き受けてくれたのは、
中1の頃に土下座をさせてしまった、あの女教師だった。
高校へ行かないという決意と、
それを了承してくれた両親のことを書いた手紙を読んで、
ぽろぽろ涙を流してくれた教師もいたし、
コイツの通学用リュックの中に、水鉄砲だけしか入っていなかったのを見て、
呆れながらも微笑んでくれた教師もいた。
イヤな物事があって、首を横に振って、
それでこそ視界に入った宝物が、いくつもあった。
posted by コイツ at 00:00| U-16【回顧録】2002年12月〜2003年06月に連載。
2003年06月08日
卒業
それは、最初で最後の純愛だった。
「合格おめでとう」
「どうも」
「あのさぁ、かなり前なんだけど…」
「ボタン?」
「憶えてた?」
「うん」
「オマエ、さつきちゃん(仮名)て知ってる?」
「うん」
「あの人のことが好き?」
「なんで?(笑)」
「や、彼女の話によると、英治は自分に気があるって…」
「ないって言っといて」
「かわいいじゃん彼女」
「べつに…」
「彼女にボタン欲しいって言われたらどうする?」
「言われねぇよ(笑)」
「や、もしもの話!」
「それは予約…」
「早いモン勝ち?」
「……」
およそ5ヶ月ぶりの電話だったものの、二人の声は、あからさまに弾んでいた。
くだらない話ばかりで、あっという間に1時間が過ぎた。
コイツは電話を切るまで、英治が無口な人であることを忘れていた。
その英治に会えなくなる日々が、間近に迫っていることも。
そして迎えた卒業式。
コイツは、片手じゃ持ちきれぬ花束を抱え、号泣する後輩達に囲まれても、
どこか上の空で、目頭が熱くなることすらなかった。
3年間、ドラマチックな出来事が目白押しだったはずなのに、
その時は、何も思い出せなかった。
ただ、もう通わなくて良くなる校舎が、やけに小さく見えた。
その日の夜、コイツと英治は、春休みに会う約束をした。
面と向かって話をするなんて、対立していた中2の頃以来だった。
痛いくらい高鳴る胸をどうすることもできないまま、その日は来た。
「はい」
中学の裏門へと伸びる階段の脇で、英治が手を差し出した。
想像していたよりも、ボタンは軽かった。
「ホントにいいの? 後悔しない?」
迷わず頷く英治。その後は互いに、どうでもいいような話を切り出しては、
黙り込んでしまうばかりだった。
「なんか他に話すことないの?」
痺れを切らしたように、英治が言った。
「え……や……いっぱいあるんだけど、
まぁ、全部ひっくるめて言うなら……ありがとう。
ホント、色々すいませんでした」
ぺこりと頭を下げたコイツを見て、英治が微笑んだ。
大好きな人が、目の前で微笑んでくれた。それほど嬉しい瞬間はなかった。
もう充分だった。それだけで充分だった。
「こんな私でも、今はホントに、生きてて良かったって思えるから…」
コイツの涙ぐんだ眼が、寂しさを訴えているように映ったのか、
英治は、「またいつでも会えるよ」と言いだした。
「いつでも電話していいから」
「…いいの?」
迷わず頷く英治。
「ツラくなったら、また頼りにしてもいいの?」
迷わず頷く英治。
「ホントに? 絶対? 信じちゃうよ?」
迷わず頷く英治。
コイツは正直、戸惑った。
「あ、握手して」
「あぁ…」
コイツの手を握った英治は、「冷たいねぇ!」と驚いた。
「暇な時でも、また電話して」
「うん。なんか、やっとまともに顔見れたね(笑)」
笑顔で頷く英治。
「じゃ、バイバイ」
「じゃぁね」
しばらく歩いてから振り返ると、英治は、立ち止まって見送ってくれていた。
それは、最初で最後の純愛だった。
「合格おめでとう」
「どうも」
「あのさぁ、かなり前なんだけど…」
「ボタン?」
「憶えてた?」
「うん」
「オマエ、さつきちゃん(仮名)て知ってる?」
「うん」
「あの人のことが好き?」
「なんで?(笑)」
「や、彼女の話によると、英治は自分に気があるって…」
「ないって言っといて」
「かわいいじゃん彼女」
「べつに…」
「彼女にボタン欲しいって言われたらどうする?」
「言われねぇよ(笑)」
「や、もしもの話!」
「それは予約…」
「早いモン勝ち?」
「……」
およそ5ヶ月ぶりの電話だったものの、二人の声は、あからさまに弾んでいた。
くだらない話ばかりで、あっという間に1時間が過ぎた。
コイツは電話を切るまで、英治が無口な人であることを忘れていた。
その英治に会えなくなる日々が、間近に迫っていることも。
そして迎えた卒業式。
コイツは、片手じゃ持ちきれぬ花束を抱え、号泣する後輩達に囲まれても、
どこか上の空で、目頭が熱くなることすらなかった。
3年間、ドラマチックな出来事が目白押しだったはずなのに、
その時は、何も思い出せなかった。
ただ、もう通わなくて良くなる校舎が、やけに小さく見えた。
その日の夜、コイツと英治は、春休みに会う約束をした。
面と向かって話をするなんて、対立していた中2の頃以来だった。
痛いくらい高鳴る胸をどうすることもできないまま、その日は来た。
「はい」
中学の裏門へと伸びる階段の脇で、英治が手を差し出した。
想像していたよりも、ボタンは軽かった。
「ホントにいいの? 後悔しない?」
迷わず頷く英治。その後は互いに、どうでもいいような話を切り出しては、
黙り込んでしまうばかりだった。
「なんか他に話すことないの?」
痺れを切らしたように、英治が言った。
「え……や……いっぱいあるんだけど、
まぁ、全部ひっくるめて言うなら……ありがとう。
ホント、色々すいませんでした」
ぺこりと頭を下げたコイツを見て、英治が微笑んだ。
大好きな人が、目の前で微笑んでくれた。それほど嬉しい瞬間はなかった。
もう充分だった。それだけで充分だった。
「こんな私でも、今はホントに、生きてて良かったって思えるから…」
コイツの涙ぐんだ眼が、寂しさを訴えているように映ったのか、
英治は、「またいつでも会えるよ」と言いだした。
「いつでも電話していいから」
「…いいの?」
迷わず頷く英治。
「ツラくなったら、また頼りにしてもいいの?」
迷わず頷く英治。
「ホントに? 絶対? 信じちゃうよ?」
迷わず頷く英治。
コイツは正直、戸惑った。
「あ、握手して」
「あぁ…」
コイツの手を握った英治は、「冷たいねぇ!」と驚いた。
「暇な時でも、また電話して」
「うん。なんか、やっとまともに顔見れたね(笑)」
笑顔で頷く英治。
「じゃ、バイバイ」
「じゃぁね」
しばらく歩いてから振り返ると、英治は、立ち止まって見送ってくれていた。
それは、最初で最後の純愛だった。
posted by コイツ at 00:00| U-16【回顧録】2002年12月〜2003年06月に連載。
